水面に浮かぶ月
「おめでとう、透子。まさか、こんなに早く、またここに来ることができるとは思わなかったよ」
『ホテル ニューオーイシ』の最上階。
あの、ハタチの7月7日と同じ、2501号室で、透子と光希は抱き合った。
「ありがとう。すべては光希のおかげよ」
「俺は何もしてないよ」
「ううん。私は、いつだって光希の言葉に、存在に、励まされてたわ。だから、この栄光は、ふたりで掴んだものよ」
透子は光希にくちづけを添えた。
「街中が、透子の噂で持ちきりだよ。あの、八木原のジジイを落とした女だ、って」
「その、噂の女を独占してる気分は?」
「最高だよ」
光希は目を細め、透子の髪を梳いた。
今度は透子が光希の唇を受け止める。
「どんな男がどう騒ごうとも、俺以外は、誰も透子の心の中には住めない。ほんとは、透子は俺のだって、叫んで歩きたいところだけど」
だけど、そんな日は、本当にもうすぐそこなのだ。
光希が会社を興し、透子が自分の店を持った時にこそ、やっと陽の下を、ふたりで大手を振って歩けるのだから。
それが、ふたりでこの街に来た日に約束したこと。
「早く、光希と一緒に暮らしたい」
「俺もだよ。でも、そしたらこういうことばっかりしてる所為で、仕事どころじゃなくなるかもしれないけど」
光希はふざけて言いながら、透子の首筋を舐め上げた。
高揚を抑えられない。
ふたりは衝動に突き動かされるように、互いを求めた。
『club S』のナンバーワンという美酒に、今日だけは、酔いしれてしまえばいいと思った。