水面に浮かぶ月


ラブホテルの部屋で少し待っていると、透子がやってきた。



「電話の時にも声に元気がないと思ってたけど、顔色が悪すぎるわ。大丈夫?」


光希は透子と目を合わせられなかった。



衝動的に、透子をベッドへと押し倒す。

透子は一瞬、驚いたような顔をしたが、でもすぐに何も聞かずに光希を受け入れた。


どうして抵抗ひとつしてくれないのだろう。


透子の中は、いつもひどくあたたかい。

そのぬくもりの中で、光希は、言葉にできない苦しみを吐き出すのだ。




ごめんな、と、何度も心の中で繰り返しながら。




行為を終えてもなお、光希は腕の中にいる透子を離さない。

強く引き寄せ、抱き締める。


透子は、そんな光希の頭を撫でながら、



「大丈夫だから、ちゃんと私に話して?」


子供を諭すように言う透子。

光希は少しの沈黙の後、



「リョウってやつがいるんだ。クスリの売人をやってるんだけど。そいつのことについて、知りたいことがある」

「私がその人と寝ればいいのね?」


透子はどこまでも察しがよかった。

光希はうなづく代わりに「ごめんね」と言ったのだが。



「私しかいないんでしょう? 任せて」


透子は光希を真っ直ぐに見据える。
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