水面に浮かぶ月
ちょっとオシャレな居酒屋の、奥のボックス席で、軽く乾杯する。
「俺、リョウ。お前は?」
「透子よ」
「あの店、よく行くのか?」
「あそこは初めて。前から気になってたから入ってみたの」
「ふうん」
リョウは慣れた様子で、当たり障りのないことだけを聞いてくる。
だからなのか、思っていたよりも話しやすい人だと思った。
「リョウはよくあのお店に行くの?」
「まぁ、暇な時とか、ひとりで考え事したい時とかは、たまにな」
「考え事って、たとえばどんな?」
「仕事のこととか色々と」
「あ、わかる。私もそう。ひとりの時間も大切よね」
リョウの話に合わせて相槌を打つ。
職業柄、透子にとってはお手の物である。
リョウは苦笑いし、
「何か、こんな風に言ったら安い口説き文句だと思われるかもしんねぇけど、俺、お前と初めて会った気がしねぇんだよな」
「もしかしてそれ、運命論ってやつ?」
「じゃなくて。誰かに似てる気がするんだよ。口調とか、喋るテンポとかが」
不意に光希の顔が浮かんだ。
だが、リョウに、光希との繋がりを気付かれるわけにはいない。
「どこの女と混同してるんだか」
「はぁ? 違ぇし。何でだよ」
わかりやすく不機嫌になったリョウを見て、透子は笑った。
笑いながらも、冷静に、頭の中で次の段階を考える。