水面に浮かぶ月
翌日の出勤前に、透子は光希に電話を掛けた。
「光希。リョウとのことは順調よ。私たち、付き合うことになったの」
なのに、光希は、電話口で「そう」と一言だけ。
そして沈黙が訪れた後、
「あいつとヤッたんだね」
聞き取りづらいほど小さな声で、光希は自嘲したようにぽつりと言った。
透子は何も言えなかった。
当初からの計画通りだとはいえ、簡単には割り切れない気持ちも残されていたから。
今までだって同じことをしてここまで上りつめてきたはずなのに。
「私が愛してるのは光希だけよ」
「わかってるよ」
吐き出すように言う光希。
「ねぇ、光希。今晩、会えない? 何時でもいいの。少しでもいいから」
「無理だよ。特に今は、リョウには絶対に気付かれないようにしなくちゃいけないし」
会えないのは、いつものことだ。
だが、今日に限っては、無性に悲しくなった。
だからなのかもしれない、言いたくないことまで漏れる。
「私のこと、汚いと思ってる?」
馬鹿みたいだ。
なのに、それでも、言葉が止まらない。
「汚いよね、私。だって、誰とでも簡単に寝ちゃうんだもの。本当は、光希に言ってないこともいっぱいあるし。所詮はそうやってじゃなきゃ、ナンバーワンになんてなれない女だし」
「やめろよ、透子。俺はそんなこと思ってないよ。俺の透子は、世界で一番、綺麗なんだから。それに、汚いっていうなら、俺の方さ」