水面に浮かぶ月


翌日の出勤前に、透子は光希に電話を掛けた。



「光希。リョウとのことは順調よ。私たち、付き合うことになったの」


なのに、光希は、電話口で「そう」と一言だけ。

そして沈黙が訪れた後、



「あいつとヤッたんだね」


聞き取りづらいほど小さな声で、光希は自嘲したようにぽつりと言った。



透子は何も言えなかった。

当初からの計画通りだとはいえ、簡単には割り切れない気持ちも残されていたから。


今までだって同じことをしてここまで上りつめてきたはずなのに。



「私が愛してるのは光希だけよ」

「わかってるよ」


吐き出すように言う光希。



「ねぇ、光希。今晩、会えない? 何時でもいいの。少しでもいいから」

「無理だよ。特に今は、リョウには絶対に気付かれないようにしなくちゃいけないし」


会えないのは、いつものことだ。

だが、今日に限っては、無性に悲しくなった。


だからなのかもしれない、言いたくないことまで漏れる。



「私のこと、汚いと思ってる?」


馬鹿みたいだ。

なのに、それでも、言葉が止まらない。



「汚いよね、私。だって、誰とでも簡単に寝ちゃうんだもの。本当は、光希に言ってないこともいっぱいあるし。所詮はそうやってじゃなきゃ、ナンバーワンになんてなれない女だし」

「やめろよ、透子。俺はそんなこと思ってないよ。俺の透子は、世界で一番、綺麗なんだから。それに、汚いっていうなら、俺の方さ」
< 70 / 186 >

この作品をシェア

pagetop