水面に浮かぶ月
「光希……」

「全部、俺の所為にしとけばいいんだよ。透子は何も悪くない。昔と同じ。俺の中では透子はあの頃のままなんだから」


透子の言葉を制した光希は、必死そうに、でもいつもみたいに努めて優しく言ってくれた。

でも、だからこそ、それが光希の本心なのかがわからない。


電話じゃ何もわからない。



「ごめんな、透子。ほんとにごめん」


電話口の向こうで、光希は泣いているみたいな声を出した。



「愛してるよ。俺はどんな透子でも愛してる」


光希の言葉は、まるで自分に言い聞かせているかのように聞こえた。


透子は顔を覆う。

また、しばらくの沈黙が続いた後、



「ごめん。キャッチだ。切るね」


ぷつりと通話が途切れてしまった。


何かが狂い始めてしまいそうで怖かった。

だから、透子は、拳を作り、わざとのように、強くいようと思った。



息を吐いたその時、携帯が着信音を響かせ、ディスプレイには【リョウ】の文字が。



「俺だけど。お前、今晩、何時に仕事終わんの?」


私が今、最優先にしなければならないことは、リョウとのことだ。


光希のために。

光希のためだからこそ。



「アフターが入るかもしれないから、何時になるかはわからないけど、終わったら連絡するわ。リョウに会うためだったら、なるべく早く帰るようにする」


透子はリョウに対しての愛の言葉を並べた。

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