水面に浮かぶ月
あの日以来、透子はリョウと、2日と間を置かずに会うようになった。
仕事の前に食事に行くだけの時もあれば、仕事が終わった後にセックスをすることもある。
リョウの部屋に入れたのも、大きな収穫だった。
リョウの部屋は、築年数の古い、でも普通のアパートといった感じ。
正直、光希からクスリの売人をやっていると聞いていなければ、目つきはともかく、リョウはとてもそんな風には見えないと思う。
「もう寝ろよ。顔やべぇぞ」
いつも通りに行為を終えた後、リョウはベッド脇で煙草を咥えた。
リョウが透子を好きなのかどうかは、いまいちよくわからない。
それでも、決して粗雑に扱われているというわけではない。
リョウは透子が「疲れている」と言えば、抱き合って眠るだけの時もある。
だから、少し、困惑した。
光希から話に聞いていた人物像とは違いすぎていたから。
「お前さぁ、そんなに仕事が大変なら、辞めりゃいいじゃん。その辺のスナックとかガールズバーとかで適当にしてりゃ、今より楽だろ?」
光希はいつも透子に、「まだ足りない」、「もっと上を目指そう」と言う。
なのに、リョウは「辞めればいい」と言うのだ。
今までまわりから、『club S』のナンバーワンという目でしか見られなかった透子からしてみれば、これほど対応に苦慮することはなかった。
しかし、こんな程度のことで心を動かされてはいけない。
透子は強い瞳で言った。
「辞めないわ。辞めるわけにはいかないもの」
立ち止まったら、一気に転げ落ちてしまう。
そうしたら、すべてを失い、私はあの地獄に逆戻りになってしまう。
それだけは嫌だ。