水面に浮かぶ月
「私には夢があるの。そのためだったら、何だってするわ」


たとえ、リョウを踏み台にしてでも、透子は光希とふたりで幸せになりたかった。

13年間ずっと、その夢だけを見続けて生きてきたのだから。


リョウは煙を吐き出しながら、肩をすくめ、



「だからって、無理すんのは違ぇだろ。お前、せめて、俺といる時くらいは、愚痴くらい言えや」


何で?

どうして?


私はあなたを騙そうとしてるのに。


嘘でも優しくされたくなんてなかった。

殴ってでもいいから、リョウには想像通りの最低男でいてほしかったのに。



「お前を見てるとムカつくんだよ。俺の大嫌いなやつと同じ顔してんじゃねぇよ」


苦しそうに、悔しそうに吐き出すリョウ。


決して自分の本心を言わないリョウの気持ちは、やっぱり今もわからない。

でも、もしかしたら、本当のところでは、私はリョウに愛されているのかもしれない。



「……ごめんなさい」


どうしてだか、謝罪の言葉が口をついた。


今、私はリョウと『恋人同士』で、でも愛してるのは光希で、光希のためにリョウとこんな関係になって。

一度、湯水のように湧き上がった罪悪感は、透子の中で次第にカサを増していく。



「何を謝ってんだよ」


答えられなくて、透子は代わりに目を逸らした。



光希に会いたかった。

会えば、迷いだって消えるはずだから。


でも、その反面で、こんな状態で光希に会うことを恐れている自分もいた。


私は一体、どうしてしまったのだろうか。

透子は泣き出しそうになりながら、ぐっと唇を噛み締めた。

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