水面に浮かぶ月


帰宅した透子は、衝動的に光希に電話を掛けた。



「もしもし。……透子? どうしたの?」


だが、透子は、何を言えばいいのかもわからなくて。

沈黙の中、光希は「何かあった?」と、優しく聞いてきた。



「ねぇ、光希」

「うん?」

「リョウは本当に、光希が言うほどの悪い人なの?」

「あいつはクスリをさばいてる売人だ。それだけでも『いいやつ』とは言えないと思うけど」

「それはそうかもしれないけど。でも、リョウは」


言いかけた透子を遮るように、光希は低く吐き捨てた。



「何? まさか、リョウに情が移った?」

「……情っていうか……」

「透子は俺よりリョウを好きになったなんて言わないよね? 俺を裏切るつもりじゃないよね?」

「……そんな、こと……」


ない、とも言い切れないのかもしれない。



確かに光希を裏切るつもりはない。

けれど、リョウに対して心が動いているのもまた確かだった。


だからもう、こんなことをしたくないと思った。


これ以上、リョウを騙していたくなかった。

なのに、光希は、



「ミイラ取りがミイラになるだなんて、ありえない。くだらないことを言って、あんまり俺を怒らせないでよ」


怒りを押し殺したように言う光希。


透子は震えた。

光希に嫌われてしまうと思ったから。
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