水面に浮かぶ月
「なぁ、透子」


光希はたしめなるような声を出す。

透子はびくりとした。



「渡した睡眠薬、ちゃんと持ってるよね?」

「……うん」

「リョウと付き合うようになって、もう1ヶ月半だ。そろそろいい頃じゃない?」

「………」

「作戦の仕上げに入るよ」


透子は泣きそうだった。

でももう、嫌だとは言えなかった。



「俺だっていつまでも、透子があんなやつに抱かれてるなんて耐えられない。嫉妬に狂いそうだ。だから、さっさと終わらせよう」


光希の気持ちは痛いほどにわかる。

だからこそ、辛かった。



「これが終わったら、ふたりでどこか旅行にでも行こうよ。誰も見てないところで、堂々と、透子と抱き合いたい」

「そうね」


確かにそれは、夢のようなことだった。



リョウを犠牲にして得る幸せ。

けれど、それは、私たちがずっとやってきたことだ。


透子は震える唇を噛み締め、腹をくくった。



「私、やるわ。任せて。大丈夫だから」

「ありがとう、透子。じゃあ、終わったらまた連絡してね」


電話が切れた。



透子は顔を覆う。


ごめんね、リョウ。

心の中でそう呟いて、罪悪感に蓋をした。

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