水面に浮かぶ月


翌日、仕事を終えた透子は、リョウに会いに行った。



「昨日はいきなり帰ってごめんね、リョウ。私、疲れててどうかしてたんだと思うの」

「いいよ、別に。俺もお前の仕事のことに口出し過ぎた。悪かったよ」


リョウはしおらしく言った。

透子はまた罪悪感に刺激されそうになったが、わざとらしく笑みを作った。



「私ね、昨日のお詫びにシャンパンを買ってきたの。乾杯しましょうよ」

「あー。俺、その前にシャワー浴びてくるわ」


立ち上がるリョウ。

リョウの行動パターンは熟知しているため、これは、透子にとっては予想通りのシチュエーションだった。



「じゃあ、用意して待ってるわね」


「おー」と言ったリョウは、風呂場に消える。


その背を見送った透子は、瓶のコルクを抜き、ふたり分のグラスに黄金色の液体を注いだ。

そして、リョウの方のグラスにだけ、光希からもらった睡眠薬を混ぜ入れた。



本当にこれで上手く行くのかと、リョウにばれたりしないだろうかと、透子の緊張がピークに達した時、



「やっべ。寒ぃし。風邪引きそう」


スウェット姿でリョウが風呂場から戻ってきた。



「頭、ちゃんと乾かさなきゃダメじゃない」

「いいって。ガキじゃねぇんだし」

「でも、それで本当に風邪を引いたらどうするの?」

「酒が最優先」


リョウは片膝を立てて椅子に座り直した。


しょうがない人。

と、思いながら、ふと、気を抜いている自分に気がついた。
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