水面に浮かぶ月
リョウはグラスを持ち上げる。



「何にってわけでもねぇけど、まぁ、とりあえず、乾杯」


こつん、と、安いグラスのぶつかる音。


ダメ、飲まないで。

そう言いかけてしまいそうになったが、透子はリョウから目を逸らした。



リョウはシャンパンを流し込む。



「って、辛すぎじゃね? お前、何の銘柄だよ、これ」


渋い顔をするリョウ。


透子は睡眠薬の味を誤魔化すために、わざと刺激の強いのシャンパンを選んだのだ。

こう言われることもまた、想定内だった。



「リョウ、甘いの嫌だって言ってたから」

「にしても、きつすぎ」

「じゃあ、どんなのがいい? 次はそれにするから」

「いや、俺あんまシャンパン詳しくねぇからわかんねぇけど、普通のがいいな。もっと飲みやすいやつ」


リョウの様子は先ほどと変わらない。


本当に睡眠薬は効いているのだろうか?

透子は内心ではらはらした。



グラスを置いたリョウは煙草を咥え、感慨にふけるように煙を吐き出しながら、



「何かさぁ、俺、未だに不思議なんだよ」

「うん?」

「お前、男なんて選びたい放題って感じじゃん? なのに、何で俺みたいなのと付き合ってんのかなぁ、とか、俺なんかのどこがよくて一緒にいるのかなぁ、とか」

「リョウの方こそ、どうして私と付き合おうと思ったの?」

「んー。それはまぁ、色々だけどさぁ」


次第にリョウのろれつがまわらなくなってきた。

眠そうに、うつらうつらし始める。
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