水面に浮かぶ月
夜に咲く花
ハタチの誕生日から1ヶ月が過ぎた。
透子はキャバクラ『JEWEL』を退店し、会員制の高級クラブ『club S』に移った。
もっともっと、高みを目指すためだ。
『club S』は、もちろんこの街で一番のクラブで、格式高く、動く金は、キャバクラでは最高峰だと言われていた『JEWEL』さえ比にならない。
しかし、高い日給を保障されているということは、当然、科せられるノルマも相当なものだ。
それでも、透子にはやれる自信があった。
「いらっしゃい、奥村さま。お楽しみのところ悪いんだけど、新しく入った子を紹介してもいいかしら」
ママは客にお伺いを立て、後ろに控える透子を一瞥する。
「この子ね、あの『JEWEL』でナンバーワンだった透子ちゃんっていうの。退店の日には、『JEWEL』の過去最高額を売り上げた実力の持ち主で」
「ほう。それはすごい」
「しかもまだハタチだから、私もすごく期待しているの。よかったら、ごひいきにしてあげてね」
ママはまるで、新しい宝飾品を見せびらかすように言いながら、客に柔らかくほほ笑みかけた。
透子は折り目正しく頭を下げる。
「はじめまして、透子です。不慣れなこともありますが、よろしくお願いします」
『club S』に来て一週間だが、透子は今のところ、そのほとんどの時間をママと一緒に客への挨拶に費やしている。
「あぁ」とだけ言われて払い下げられることもあるが、それでも透子は、すべての客の顔と名前を必死で頭に叩き込んだ。
ここでナンバーワンになるために。
「綺麗な子だなぁ。なぁ、ママ。この子と少し話をさせてもらってもいいかい?」
いける。
透子は心の中で勝機を得る。
ママは「どうぞ」と言い、後ろに下がったので、透子は「失礼します」と、客の横の席についた。
「ハタチだって? これはまた、若い子が入ったものだなぁ」