水面に浮かぶ月
嫉妬と奪取
自宅のポストにその封筒が届いたのは、夕方だった。
消印は昨日。
差出人の名前はなく、代わりに【T】とだけ書かれていた。
光希ははやる気持ちを押さえ、封筒を開けた。
鍵と、SDカードと、USBメモリ。
中身はそれだけだった。
光希は急いで透子に電話を掛けた。
「ありがとう、透子。透子ならやってくれると思ってた。リョウには気付かれてないよね?」
「うん」
興奮する光希とは対照的に、透子は気のない返事を返すだけ。
まさか、リョウに対しての罪悪感なんて持ってないよね?
あんなやつのことなんて、気にしてるわけないよね?
それでも、光希はわめき散らしたい気持ちをこらえた。
「封筒の中に鍵があったでしょう? あれはリョウの部屋のスペアキーよ」
「うん」
「リョウの部屋の食器棚の中には、手提げ金庫が隠してあるわ。金庫の鍵は、テレビ台の裏にガムテープで貼り付けてあるから」
「それは貴重な情報だな」
光希が頭の中で計画の第二段階を考えていたら、
「私、これから出勤なの。ごめんね。もう切るから」
素っ気なくだけ言って、本当に電話は切れてしまった。
光希は茫然とする。
透子が光希に対してこんな態度を取るのは初めてだったから。
光希は唇を噛み締め、ガッ、と壁を殴りつけた。