水面に浮かぶ月
「お前にだから話すけど、俺、今、女いるんだよ」


透子のことだ。

そう思った瞬間、体の中心に冷たいものがすとんと落ちた。



「最初は顔と体がいいから付き合おうと思った。ほんとそれだけだった。でも、何か、あいつのことを知れば知るほど、マジで好きだと思うようになって」

「………」

「無理するばっかだし、弱音なんか絶対に吐かずに笑おうとするし。あんなやつ初めてだよ。だから、見てらんねぇと思ううちにさ」

「………」

「でも、俺、こんなじゃん? 今までまともに女と付き合ったことねぇし。しかも、シャブ売ってるとか言えねぇし」


光希はカウンターの下で拳を作った。


何で俺がそんな話を聞かされなきゃならない?

怒りと嫉妬で爆発してしまいそうだった。



「これ以上、隠し通せるわけねぇし、あいつに本当のこと言わなきゃとは思う。でも、言えるはずねぇし。言って、別れたくねぇんだよ」


リョウは悲痛な顔をする。



「なぁ、俺、マジでどうしたらいいと思う?」


少し前までのリョウは、あれほど強気だったはずなのに。

透子がリョウを変えたのだろう。


しかし、その事実は、余計、光希の怒りの炎に油を注ぐ。


俺の前で、俺の透子とのことをノロケやがって。

お前だけは絶対に許さないよ、リョウ。



「どうしてそんなことを俺に?」

「あいつ、何か、お前と似てんだよ。どこがどうとかじゃねぇけど、似てるんだ」

「だから?」


光希は冷淡な目で言った。



「俺はリョウの恋愛なんて興味がない。アドバイスを求められたって困るよ。勝手にすればいい」
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