水面に浮かぶ月
「まぁ、そう言われるだろうとは思ってたけどな」


リョウは自嘲した。

煙草を咥えたリョウは、肩をすくめ、



「光希はさぁ、どんな女といてもメリットしか考えてねぇもんなぁ? お前、マジで人を好きになったことなんてねぇだろ?」


あるよ。

俺は透子を死ぬほど愛してるよ。


お前みたいな薄汚い野郎に触られていることを考えるだけで、ほんとは暴れまわりたい気持ちだよ。


でも、そんなことは言えるはずもない。

光希はぐっと言葉を飲み込み、



「馬鹿馬鹿しい。女なんて金のための道具でしかない。俺にはそんなことよりもっと崇高な夢があるんだから」

「……『夢』か」


リョウは長く煙を吐き出した。



「俺の女も同じこと言ってたよ。あいつにも『夢』があるらしい」


そこで、ふと、リョウは光希に目をやって、



「そういえば、光希もあいつも、同じ香水つけてるな。だから似てると思ったのかも」


光希は焦った。

だが、辛うじてそれを顔には出さずにいられた。



「香水なんて、みんな同じようなものをつけてるだろ。どこにでも売ってるやつだし、珍しいことじゃない」


これ以上、透子との繋がりに気付かれるわけにはいかない。



「それより、愚痴りに来たなら帰りなよ、リョウ。俺はこれからまだやらなきゃならないことが山ほどあるんだから」


光希は席を立った。


気付かれないことも大事だが、それ以上に限界だったのだ。

リョウを殺してやりたいと思う気持ちを押さえることに必死で。



リョウが帰り、光希は肩で息をしながらチェストを蹴り飛ばした。

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