水面に浮かぶ月
すべてを奪われ、絶望に打ちひしがれるリョウを想像するだけで、光希は笑いが止まらなかった。
事務所に帰り、煙草を咥えてひと息ついていると、案の定、リョウからの電話が鳴った。
「大変なことになっちまった。今すぐうちに来てくれ、光希」
悲壮感漂う声のリョウ。
光希は顔を歪めて笑いながらも、口調だけは心配した素振りで「どうしたの?」と聞いたのだが。
「いいから、とにかく今すぐうちに来てくれ!」
一方的に言って、リョウは電話を切ってしまう。
光希は鼻歌混じりに煙草を消した。
絶望したリョウの顔を拝みに行ってやるために。
光希がリョウのアパートに到着したのは、電話があってから10分ほどが経った頃だった。
リョウは凄惨なリビングの中央にへたり込んでいた。
その片隅には透子がいた。
光希は透子を一瞥し、でももちろん声を掛けることはなく、戸惑う顔を作ってリョウへと近付いた。
「リョウ。これは、どういうこと? 誰の仕業?」
「わからねぇ。さっき帰ってきたら、部屋が荒らされてて。金庫の中身もすべてなくなってたんだ」
そりゃあ、俺がやったからね。
光希は腹の底で言いながらも、やっぱり心配してやる素振りをする。
「警察に電話をしようよ、リョウ。被害届を出せば、犯人は捕まるかもしれないだろう?」
「そんなこと、できるわけねぇだろ!」
リョウはわめき散らすように言った。
「盗まれたのは金だけじゃねぇんだ! クスリがなくなりましたなんて言えねぇよ! 第一、これは強盗じゃなく、岡嶋組の仕業かもしれねぇんだぞ! そしたら俺はどうなるか! てめぇだってわかるだろ、それくらい!」