水面に浮かぶ月
「ねぇ、リョウ。『クスリ』って何? 『岡嶋組』って?」


横で透子は驚いたような顔を向けた。

リョウははっとしたが、



「いや、だから、それは……」


こんな状況で、いい言い訳なんて思い付くはずもないのだろうけど。


でも、もちろん透子だって、知らないわけではない。

光希同様、知っていて、それでも驚いたように言うのだ。



「リョウ、クラブでバイトしてるんじゃなかったの? 私を騙してたの?」

「違ぇよ、透子! 騙してたとかじゃねぇ!」


大声で制したリョウだったが、顔は泣きそうだった。



「なぁ、光希。俺はどうしたらいいんだ。このままじゃ、殺される」


そうだよ、お前のそういう顔が見たかったんだ。

光希は口元が緩みそうになったが、



「落ち着いてよ、リョウ」


努めて冷静に、諭すように言う。



「とにかく、この街を出なよ。どこか遠くに逃げた方がいい。クスリの件も、岡嶋組の件も、俺が上手くやっておくから」

「俺に飛べって言うのかよ!」

「殺されるのとどっちがいいか考えなよ、リョウ。命あっての物種だ」

「けど、そんな……」


リョウは青白くなった顔を覆う。

でも、少しの間を置き、



「一緒に逃げてくれ、透子! 俺を助けてくれ!」


縋るように、リョウは透子の肩を揺らした。


透子はひどく驚いた顔をする。

が、光希を一瞥した後、またリョウに目をやった透子は、
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