水面に浮かぶ月
リョウは茫然としたきりだった。

光希はリョウと同じ目線の高さまでしゃがみ込み、



「もしもこれが岡嶋組の仕業だとしたら、ここでぐずぐずしてる時間はないよ。あの子のことは忘れて、今は自分のことだけ考えるべきだ。さぁ、立って」


腕を引っ張ってやると、リョウはよろよろと立ち上がった。


光希は近くにあったバッグを手に取り、その辺に散らばっている衣服を適当に詰めてやる。

その間も、リョウは立ち尽くしたままだった。



「田舎にでも帰りなよ、リョウ。この街を出さえすれば、岡嶋組だって手を出してはこないはずだし。駅まで送るから」


光希は甲斐甲斐しく言って、荷物を持ってやり、リョウを引っ張って部屋を出た。

アパートの下に停めていたベンツの助手席に、リョウを押し込む。


走り出した車内で、リョウは顔を覆った。



「なぁ、光希。今まですまなかったな」


リョウは蚊の鳴くような声で言った。



「俺はお前のことを誤解してた。もっと冷たいやつだと思ってたのに。なのに、こんな風になってやっと気付いたよ」

「何を言ってるのさ。友達じゃないか、俺たちは」


光希はヘドが出そうな台詞を、さらりと吐いた。


肩を揺らすリョウ。

今度は本当に泣いていた。



車は駅に到着した。



「今、これだけしか持ってないけど。当座の金としては、何かの足しにはなると思うから」


財布の中の札をすべてリョウに押し付けた。

4万と、3千円。


それを握り締めたリョウは、「本当に助かるよ」と、声を震わせている。
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