水面に浮かぶ月
「SDカードには携帯のデータが、USBメモリにはパソコンのデータが入っています」

「ほう」

「中身は確認してみてもらえれば早いと思いますが、リョウの顧客の電話番号や、取引に関するメールなど、どれもかなりいいものが入ってますよ」

「へぇ。そりゃあ、すげぇ」


もちろん、その中の、透子に関する内容は、すでに光希がデータから削除しているため、内藤が知るには及ばない。

おまけに、光希は、何かあった時のためにと、密かにそのデータのバックアップを取ってある。


光希だって、内藤の言いなりになって動くだけの犬になるつもりはないから。



「このクスリはリョウの部屋にあったものです。俺が持っててもしょうがないので、内藤さんの方でお好きなように」


煙草を咥えた内藤は、カウンターテーブルに並んだそれらを、目を細めて見ていた。


リョウの部屋の金庫の中にあった現金のことは言わなかった。

言う必要のないことだし、それまで内藤のふところに納めさせてやる理由はない。



「で、肝心のリョウのことですが。先ほど電話でお伝えした通り、この街から飛びました。俺が駅まで送ったので、間違いはありません」

「相変わらず、一体どんな手を使ったんだか」


内藤は感嘆するように言った。



「ほんとに怖ぇよ、お前はよぉ。他人をおとしいれることに関しちゃあ、天下一品の頭と行動力を持ってやがる」

「褒め言葉として受け取っておきます」


内藤はテーブルの上のそれらをバッグに入れ、代わりに封筒を取り出した。

現金が入っていることは、一目瞭然だった。



「300万ある。まぁ、十分な額だろう?」


リョウから盗んだ200万と合わせると、500万になる。

思った以上の成功報酬を得ることができた。


光希は満足げに「ありがとうございます」と、内藤に頭を下げた。



「じゃあ、俺は、早速、帰ってこれの中身を吟味するとしよう」


早々に席を立つ内藤。

光希はまた深々と頭を下げながら、内藤を店の外まで送ってやった。

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