水面に浮かぶ月
のぼる階段
「今すぐ会いたい」
光希からそんな電話をもらったのは、リョウとの一件があった翌日のことだった。
リョウのことに罪悪感を抱いていないと言ったら嘘になる。
光希の手前、ああするしかなかったとはいえ、今でも――今更だとしても、できることならあんな方法は取りたくなかったと、後悔する気持ちもある。
けれど、もうこれ以上、光希の誘いを断ることはできなかった。
透子は光希から指定された、いつものシティホテルの一室のドアをノックした。
「すごく会いたかった」
部屋に入るなり、光希は透子をきつく抱き締めた。
光希の匂いがする。
そんな程度のことで、透子は泣きそうになってしまった。
リョウに対してどんなに罪悪感を感じていようとも、結局は、私が愛しているのは光希なのだと、透子は思い知らされた気がして。
きっと、ずっと不安だったのだ。
光希に会えなくて、抱き合えなくて、だからリョウに心が揺れていたのかもしれない。
透子はそんな錯覚さえ起こしてしまいそうだった。
「私も、すごく会いたかったわ」
絞り出すように言った透子。
「ごめんな、透子。すごく辛いことをさせてしまった。苦しかったよね? 本当にごめん」
「いいの。光希のためだもの」
光希のためということは、つまりは私自身のためということ。
透子は自らを納得させるように強く言う。
「私の方こそ、しっかりしてなくてごめんね。その所為で、光希を苦しめてしまった」
「言わなくていい」