【完】狼ご主人様と子羊ちゃん
可愛いだなんて、思ってないくせに。
確かに強気だけど、それを本当は疎まし
く思ってるくせに。
そんなに真っ直ぐ見つめられて、微笑ま
れたら、本当なのかなって、思ってしま
いそうで。
頭の中で、『これは演技だ』って何度否
定しても。
辻宮に惑わされて、翻弄されそうになる
んだ。
「美里、だから―――」
フッ、と辻宮の瞳が陰る。
「だから俺を裏切らないで?」
―――穏やかな口調なのに、どこか鬼気
迫る声で。
泣きたくなるほど苦しくなった。
辻宮がまるで、何かを手探りで探して、
掴んだそれにすがりつくような子供に見
えた。