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 ノルマだって低すぎる。新入社員と同じ位のノルマだ。



「あと…君の事を調べさせて貰った」
『えっ…』



 ドクンと大きく鼓動する。あの日の事がフラッシュバックする…。



 未だ思い出すには辛い…。未だ鍵を掛けておきたい。



「君島さん?」
『あっ、はい』
「これから厳しく行くよ?」
『ご指導お願いします』



 これ以上触れられなかった事に安堵した。指先は未だ冷たいが、平常心に戻れそう。



「日付が変わるからそろそろ帰った方がいい」
『はい。では、失礼します』



―…
――…
―――…

 あんな不安な顔をするとは思わなかった。即座に触れてはならないと察する表情だった。



 上手く誤魔化せたかは分からない。彼女の表情は穏やかさを取り戻したから大丈夫だろう。



 訳あり社員が居ると聞いていた。外回り全員が訳ありと落胆していたが違ったようだ。



 君島の事を指しているのだろう。もっと深く調べる必要がありそうだ。



「初日から残業か?」
『お前こそ』


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