雪の果ての花便り
「しばらく居候させてください」
いくら『単刀直入に言います』と前置きされても、驚きが半減するわけじゃないと知った。
日曜日の午前9時過ぎ。寝ぼけ眼に映ったのはテーブルに頬杖をついて私を見ている彼だった。
文字通り飛び起きてから30分もしない内に、私はまた彼に驚かされていた。
「帰る家がないんです」
それは昨晩も聞いた。私は『ひと晩だけなら』と返したはず。
「言ったところで不審者なのは変わりないでしょうけど、なにもしません。寝泊まりさせてほしいだけなんです。むしろ居候させてもらえるならなんでもします。料理に洗濯、掃除に買い物、肩揉みになんなら夜の――」
「いやあのっ……、ちょっと待ってもらえますか」
今こともなげに夜の相手とか言い出すところだったでしょう。
一体なにを考えているのか。
やっと頭がはっきりしたところに思いもよらない頼み事をされちゃ、寝起きと変わらないじゃない。
テーブルを挟んで向かい側に座る彼の存在に、思わず眉間のしわを押さえたくもなる。
「言いたいことはわかりました……けど、あの、単刀直入に言うと、無理です」
「お願いします」
あれ、私の声届いてる気がしない。
「少しのあいだでいいんです。今すぐは無理ですけど、提示していただければ泊めてもらった分だけお金は払います。誓約書も書きます。逃げる可能性があると疑われるなら、信じてもらえるまでなんでもします」
「……」
真面目な顔をして、明瞭な発音でしゃべる彼から伝わるのは大半が真剣さだった。残りは必死、それに尽きる。
だからと言って、『好きなだけいてください』なんて言えるわけがなかった。
「あの、あなたを家に入れたのはお金を持っていないと思ったからです。病院に連れて行っても保険証なしでいくらかかるかわからなかったし、代わりに払えるほど私にも余裕がなくて――」
「ふつう、見知らぬ他人にそこまでしませんよ。病院に置いて帰ればよかったじゃないですか」