雪の果ての花便り


「……こんなこと言うのもなんですけど、あなたなら、一緒に住みたいって女性が他にたくさんいると思います」

「いないので居候させてください」

「お断りします」


目を見て言うと、視線を落とされた。


「女の人と住みたいわけじゃないです」

「そういう意味で言ったわけじゃ……」


ただ女の人には困らないだろうと思ったから提案してみたのだ。


彼女のひとりやふたり、本当にいないのだろうか。


疑うのが自然なくらい彼はきれいな顔をしていた。うつくしいとか格好いいとか、そういうものとはまたちがう。


彼を構成するあらゆるパーツに外れがないというか、惜しいな、って思う部分がなかった。


きっと彼が髪を染めていたり、ピアスを開けていたり、猫背だったり不精ひげを生やしていたら、惜しいと思うのだろう。


「年末年始って、出費重なりますよね」


目を伏せる彼を見つめていたら、唐突な話題と共に視線がかち合った。私は目をしばたたく。


「忘年会続きの年末に帰省にかかる交通費、地元の友達と飲み会したり、遠出した先では会社の人たちへのお土産買ったり。初売りでつい買い過ぎても容赦なく新年会の予定は入っちゃいますよね」


今度は私が視線を逸らす番だった。逸らしたというよりも、テーブルに置いてあった家計簿に視線を移したと言ったほうが正しいが。


……見た? まさか。他人の家計簿を勝手に見るなんて、常識で考えてありえない。


ありえないのに、彼が口にした出費はまさに私の家計簿につけられたそれと一致した。思い返せる限りは、寸分の狂いもなく。


盗み見るように彼へ視線を戻すと、あろうことか笑みを向けられていた。


「貯金崩すの嫌なんですよね」


見られた。100%、確実に。

きっと2日前に書いた、『節約!』という文字まで見られた。


最悪だ。つけていないけど日記を見られるより最悪な気分だった。
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