雪の果ての花便り
恐る恐る受け取ると、ギャルソンが「当店オリジナルのテーブルウェアでございます」と情報を付け足した。
私はお礼を言いながら、彼を見つめた。
私の全てが、彼の全てに惹きつけられている気がしてならなかった。
「あの、すごく、おいしかったです。コーヒーのブリュレって初めてだったんですけど、あ、私コーヒーが好きなので選んだんですけど、甘さがちょうどよくて……。えっと、また食べたいと思ったので、また食べにこようと思います」
自分でもなんて下手くそな感想だろうと思った。けれど彼は私のように狼狽の色をにじませる様子もなく、落ち着いていた。
「まだ試験期間みたいなもので、コースでしか出してないんです」
でも、と彼は言った。
「ありがとうございます。ランチでもティータイムでも食べてもらえるように、頑張ります」
流れるように微笑みを湛えた彼は少し照れくさそうに私を見た。
「また、いらしてくださいね」
はにかむ彼の双眸はとても優しく、声音はおだやかだった。
それなのに胸が苦しくなった。彼がお辞儀をし、去ろうとした瞬間、引き止めようとする自分までいた。
彼をもっと見ていたくて、もっと話していたくて。
私は彼が立ち去るまでの僅かなあいだ、彼に見つめられ、その声で話しかけられることを日常的なものとして夢見てしまった。
ひと目惚れだったと気付くのに時間はかからなかった。いつどこにいても、私は彼の姿を探していたからだ。
見つかるはずもないのに。
偶然。それに焦がれ続けた。