雪の果ての花便り
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「アンタって、どうしてそう悠長に構えていられるの」
彪くんが私の家に居候をすることになるまでの経緯を話し終わると、柚は心底呆れたように私を見つめる。
「トラウマ克服と、ぼけーっと見てるだけの片思いに、ダブルでピリオドを打ったのは褒めてあげる」
「褒め続けてもらえる気がしない」
「そりゃそうよ! アンタ今、好きな人と暮らしてんでしょ!? 好きだってアピールし放題なのに、なに毎日タダでフレンチシェフの料理を堪能してんの!? バカなの!?」
「シェフじゃなくて見習いだけど……あと柚、声が大きい」
「あたしの部屋だからいいのよ!」
私はそれもそうだと納得してみせる。
「大体なんで、ただの宿主と居候でいいになるの。美空さんがアンタを覚えていなくたって、好きなことに変わりはないんでしょう? 時間なんて関係ない! 一緒に暮らしてたら好きになっちゃったとか言いなさいよっ」
「もう告白する気はないんだってば」
「フランスに行くから?」
「それもあるけど……」
彪くんには好きな子がいる。
今さら彪くんが昼間はなにをしているのか気付いた。きっと今日も探していたのだろう。今日はちゃんと、傘を持って。
言葉を濁した私に、柚は「ねえ」と呼びかける。顔を上げた私に柚は厳しい眼差しを向けてくる。
「アンタは『応援するのが精いっぱい』って言ったけど、それは最低限、自分が後悔しないための方法でしょう。なにもしなかったことにはならないもんね」
「……そうだね」
彪くんがフランスに行くと知って私は告白をする気がなくなったし、彪くんは私のことを覚えていない。
それならば私は、新しく築かれた関係の中で彪くんと過ごし、ひとりけじめをつけようと思った。
彪くんが家を出て行くとき、私は彪くんを好きになれてよかったと、晴れやかな気持ちで見送ると居候を了承したときに決めたのだ。