雪の果ての花便り
「おねーさん見て。小さいけど雪うさぎ作れたよ」
「……彪くん。今すぐ窓を閉めてください」
お風呂からあがると、彪くんがベランダで雪うさぎを作っていた。網戸まで全開にしているなんて信じられなくて目を疑った。
外とほぼ変わらない室内温度に、私は暖房機の前でブランケットにくるまりながら不満を漏らす。
「なにをしているんですか……。もう本当に、なにがしたいんですか」
「雪、好きだし。おねーさんもいなくて暇だったから」
彪くんはすぐに窓を閉めてくれたが、わざとカーテンに隙間を作り、そこから雪うさぎに部屋を覗かせている。
意味がわからない。そんなところも好きだと思ってしまった自分に翻弄されそうになる。
「明日も雪降るかな」
「……予報では降りますよ」
「じゃあ明日はホワイトシチューにしようか」
ね? と彪くんは顔を覗きこみ同意を求めてくる。
ポタージュのほうが好きだけれど、彪くんの仕草ひとつに胸が騒ぐ私は言葉に詰まり、頷くだけで終えた。
「あ、でもにんじん切らしてたかも」
「じゃあコーンポタージュにしてください」
「一緒に買いに行こう」
「彪くん。私はにんじんとしいたけが、とても苦手です」
「食べやすいように、ハート形に切ってあげるね」
「……」
いっそう食べづらい。
彪くんはにこりと笑みを向け、私の背後に回る。ドライヤーの温風で私の髪がなびく。彪くんの指が優しく頭に触れる。
彪くんの手は魔法の手だ。シェフに対してありがちな感想を抱く。
彪くんはいつも、とても楽しそうに料理をする。調理中、くもった眼鏡を拭く仕草が私のお気に入り。
洋食しか作れないのかと思い、和食と中華を希望したことがあるけれど、私が食べたいと言ったものを作れなかったことはない。
やっぱり魔法の手だ。
彪くんに触れられると、1日の疲れが解けて消える。