雪の果ての花便り
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「おいしそうなもの食べてるじゃん」
週末が明けた月曜日、自分のデスクで朝食を取っていると、柚が出勤してきた。
「朝ぼんやりしてたら食べ損ねちゃって。柚も食べる?」
「寝坊じゃないのがアンタらしいけど、なんでまた」
「昨日なかなか寝付けなくて、眠かっただけ」
手渡したサンドイッチを食べるなり、柚は「うまっ!」と目を見開いた。当然おいしいのは彪くんの手柄だ。
タンブラーにいれてもらったコーヒーを飲めば、
「美空さんと暮らし始めて2週間経ったけど、どうよ」
と、柚はここ最近どんな会話をしていても同じ話題を出してくる。
「私はやっぱり彼のことが、すごく好きなんだと思えた」
「だったらもちろん告白する気になったわよね」
「ならないよ」
「なんだと?」
柚は食事を続ける私をジロリと睨んだ。
長いあいだ応援してくれていた柚だから、怒るのも無理はないと思う。それ以上に、本気で気遣ってくれている。
「1日のうちの数時間だけど、彪くんと暮らせて楽しいよ。好きだなあって何回も思う。だから、そこで終わらせたい」
この気持ちを、悲しいものに変えたくない。
好きだと言ったら、欲が出てしまう。告白して断られたら、泣いてしまう。出逢わなければよかったと、思いたくない。
「告白すればよかったって後悔しても、知らないからね」
「……迷いがないから大丈夫だと思う」
何か言い掛けた柚は口を噤み、視線も逸らすから、私の眉は少しだけ下がる。
「ごめんね柚。ありがとう」