雪の果ての花便り


彪くんは17時過ぎに帰ってきたらしい。

私が次に目覚めたのは20時を回った頃だった。熱は37.1℃まで下がっていた。


先にお風呂を済ませ、彪くんが作ってくれた風邪の日特別メニューを食べると、体の内側からぽかぽかした。ぺろりと完食すれば、彪くんは「お腹空いてたんだ」と笑った。


明日は出勤できそう。そう思った私は目覚ましをセットして、彪くんより先にベッドに入った。彪くんは私が眠くなるまで話相手になってくれた。何時に眠ったかは覚えていない。



――まずい。今何時だろう。

1日中眠っていたせいか、途切れ途切れに何度も目が覚めた私は、携帯のまぶしい画面を我慢しながら見る。


深夜1時28分。急に目が冴えてきた。


しばらく目をつむってみても、一向に眠気はやってこない。時計の音まで気になってきた。


んん、と鼻から濁った声を出す。寝返りも打つと私を呼んだ彪くんの声が薄暗い部屋の中でやけに響いた。


「眠れないの?」

「……はい。すいません、起こしましたか」

「ううん。天井がぼんやり明るくなったから、おねーさんも起きてたのかと思っただけ」

「眠れないんですか」

「うん」


ロフトにいる彪くんの声は静かで、「ねえ」と次いだ言葉も、さらさらとした雪のように私のもとへ舞い落ちる。


「そっちに行ってもいい?」



夏用の布団に毛布を合わせても、ロフトは寒いらしい。私はロフトで眠ったことがないから、初めて知った。


彪くんの体は確かに冷えていて、今までそんなに寒いところで寝かせてしまったのかと申しわけなく思った。


深夜1時過ぎ。はっきりとまではいかないけれど、電気をつけていなくても彪くんの横顔はうかがえる。


外に雪が積もっているせいだ。
雪明りは月の光よりもずっと明るく、おだやか。
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