雪の果ての花便り
「これって本当に追加料金とらなくていいの?」
「……風邪がうつっても知りませんから」
「うーん。やっぱりシングルベッドにふたりはせまいね」
「こっち向かないでください」
「おねーさんばっかり俺を見るのはずるいと思うよ」
「私は右向きでないと眠れないんです」
なにそれ、と。事実なのに彪くんは肩を揺らして笑うから、苦し紛れの言いわけをしている気分になった。
ひとつの布団にふたりで入り、向き合う私と彪くんの関係は一体なんなのだろう。
この状況は一線を越えていることにならないだろうか。
「……どうして、」
「うん?」
「どうしてこんなことになってるんだろうって、思いませんか」
「こんなことって、俺とおねーさんのこと?」
私は小さく頷く。
「おねーさんは、こんなことになってるのはどうしてだと思うの」
「わからないから訊いてるんです」
うそ。こんなことになっているのは、私があなたを好きだから。
「うーん」と口を閉じたまま発した彪くんは、斜め上に向けた視線を私に戻す。
「おねーさんが優しいからじゃない?」
「……、」
「こんなことになってるのは俺が言い出したからだけど、受け入れてくれるおねーさんがいるからでもあるよね」
納得した? と微笑む彪くんに、胸が押し潰されるような思いだった。
納得するどころか、困惑してばかりだ。
彪くんはどうして『一緒に寝よう』なんて言ったのだろう。私がそれを受諾してしまったのは、彪くんを好きだからとしか言いようがない。
でも彪くんは私を好きじゃないはず。
そう思いながら期待してしまう自分をかろうじて抑え込めているのは、『居候させてくれるのなら夜の相手もする』とほのめかされたことがあるからだ。
期待などしちゃいけない。
私が練りに練った道順を、彪くんがことごとく外れていったとしても。一度は決めた道を、安易に曲げたりはできない。