雪の果ての花便り
一緒に寝ようと言われて断らなかったのも、目が覚めたら彪くんを好きな私は後悔すると思ったからだった。
だけどもしこれ以上を望まれたとしても、私は受け入れられない。体だけの関係なんて、断固として拒否する。
だから、やめてください。
私は声を出さずに言う。少し荒れた彪くんの指先が頬の上をなぞるから、
「なんですか」
私はそっけなく言う。
返事がなくて、いよいよ困り果てた。
今からでも私がロフトで眠ればいいのに、すぐ後悔するとわかっているせいで動けない。
なんて厄介なんだろう……。後悔しないために今日まで来たのに、私を見つめる彪くんから目を逸らすことさえできない。
なんとか話題を探ろうと思考の引き出しを開け続けるが、謎のまま放置していたものばかり引いてしまう。
この家からたった4駅離れた場所に住んでいるはずなのに、なぜ帰る家がないと言ったのか。
たまには学校へ行っているのか。まだ〈ZInnIA〉で働いているのか。好きな子には会えたのか。なぜ探すことになったのか。
いつも私のそばにきて触れることに、意味はあるのか。
知らないままでいいと思っていたはずなのに、次から次へと疑問が再浮上してくる。
この感覚は知っていた。把握する間もないくらい衝動的な欲求。彪くんに相傘を提案したときの私に起こったそれと似ている。
きっとあのとき以上にふたりの密度が高いからだ。
「やめてください」
私の輪郭に沿って添えられた彪くんの手も、頬を撫でてきた親指も、ひんやりと冷たい。
彪くんは驚いたり気まずそうにする様子も見せず、
「どうして」
そう、いつものように訊いてくる。
「……どうして、『どうして』って訊くんですか」
「どうしてやめてほしいのか、わからないから」
言いながら頬をひと撫でしてくるから、言葉に詰まった。