雪の果ての花便り
「生理的にいやなのか、恥ずかしいからいやなのか、気になる」
「……、やめてくださいと言っている人にそれを訊くのは、いかがなものかと思います」
「だって本心じゃなかったら、俺は気づかず見逃すことになる」
動揺が表に出たことに気づいたのは、彪くんが眉を下げて微笑んだからだった。
「本心だったらどうするんですか……」
この状況を差して言ったのか、例え話で言ったのか。自分でも区別がつかないほどに困惑している私の問いは弱々しかった。
「本心だったら、すぐ離れるよ」
親指で涙を拭うように頬を撫でられ、心臓のあたりが熱くなる。
いっそ泣いてしまいたいと思う私は、彪くんと今こうしていることを後悔しつつあった。
ほんの数分で、離れたくないという想いが強くなりすぎたように、彪くんへの恋情が膨れ上がってしまった。
本心だと、言わなくちゃいけないのに。彼を見ていたいと、彼から離れたくないと、私の心が泣きたいほどに訴える。
いつこの家から出て行くのかと考えると、寂しくて堪らなくなる。
どうして今日に限ってこんなにも心がざわつくのか。
どうしたらいいの。
私の想いは気付かれている? 気付かれていない? もう一度「やめてください」と言うべき? 言っても言わなくても、これ以上はなにも起こらない?
……彪くんは、なにがしたいの。
期待しちゃいけないと思いながら彪くんから目が逸らせずにいた私は、視線を落とす。
いったん落ち着こう。考え直したところで、私は後悔をしてもいいじゃないと頭によぎっていたように思う。
間違えたくない。後悔したくない。私が持つ臆病なそれは奔放な彪くんの前ではあってないようなもので、彼を好きな私には、最初から選択の余地すらなかったのだろうか。
「おねーさん」
「……、」
そっと視線を上げた先で、彪くんは頬をゆるめていた。
ああ、美空さんだ……なんて。