雪の果ての花便り
眼鏡をかけていない彪くんに出会ったときの彼を重ねた。
同時に込み上げた想いは熱く、目頭までもを熱くさせたけれど、私は確かに幸せを感じた。
関係が悪いほうに変わってしまいそうで、特別な人を家に招くことができなくなっていた私が、今は好きな人と暮らすことができている。
想うだけの片思いを1年近く続けていた私の目の前に、彪くんがいる。笑ってくれる。優しくしてくれる。触れてくれる。
幸せなことだ。
最初からけじめをつけようとしていた私にとっては、信じられないくらいすてきな贈りもの。
彼を好きになれてよかったと、もっともっと強く思えるくらいの、夢のような時間を過ごせている。
「やっぱり私……彪くんを居候させたことに、後悔しようがないです」
私の髪を耳にかけようとしていた彪くんの手の動きが止まる。
後悔することなどひとつもない。そのための努力はできたと思える。けれど今は、ただの悪あがきだったようにも思える。
今さら時間を共有したって、先に続くものはないのに。いい思い出にしたくて、ときめきだけを貪り尽くした。
……本当は、帰る家がないと言った彪くんを居候させたことで、いつか、何年後かに続くものがあるかもって思っていたのかもしれない。
やっぱり諦めきれていなかったのかな。それでも一緒に暮らせて幸せだって言える。
「彪くんがなんのために努力をしているのか、私は知りませんけど……もし本当に悪あがきにしかならなかったとしても、おつかれさまって、誰かに言ってもらえるといいですね」
私はきっと、柚に怒られるだけだろうな。
微笑む私とは対照的に、彪くんは探るような目付きで私を見つめている。かと思えばおもむろに顔を引き寄せられた。
互いの額が触れ、鼻先がくっ付くかくっ付かないかの距離に、息をするのも忘れてしまいそう。
「抱きしめてもいい?」
私は何も、言わなかった。