奴隷戦士
鷹介とは、ぼくが物心ついた時から一緒に暮らしている。
『頭が良くて、何でもできて、しっかりしてるみんなの兄ちゃん』
それが鷹介。
だからといって、ぼくは彼のことを『兄ちゃん』だなんて、調子に乗るに決まっているから言わないけど。
そしてぼくらが住んでいるのは、辺りは田んぼが広がる超ド田舎の寺。
砂を踏み固めてできた道に、青葉空の澄んだ空、文明を語りそうなほど高度な物は見当たらない。
そういえば、ぼくが住んでいる寺に教養を教えに来る物好きな男が「こんな王都とかけ離れて、情報が少ない世界もまた、いいものだねえ」と、しみじみと言っていたこともあった。
彼は教師という職業で、ここへはおっさまの指示で来ているらしい。
なにやら彼が住んでいる王都は、文明が発達しているため、ぼくが住んでいるこの地域とは同じ世界とは思えないほどひどく違っているようで、しんどいし、疲れるらしい。
ぼくは物心ついた時からずっとここに居るからそんなものは知らない。
正確にいえば、親に捨てられてずっとここにいるから、外の世界がイマイチ分からない、だ。
子どもができても、育てられない大抵の人は、この寺の前に子供を置いていく。
ぼくも鷹介も例外じゃない。
だから寺には、子供が多い。
だけど、孤児が増えて多いなと思うくらいになったら、運よく里親が見つかって、その子たちとはさよならする。
ぼくにとって、ここの寺が家で、鷹介は兄弟みたいなもんで。
ぼくにはそれだけで十分だから問題はない。
でもその教師いわく、ここの治安は相当悪いし、とても不衛生なのだと。
物心がついた時からここに居るぼくにとって、人が言う『汚い』とか『不衛生』はよくわからない。
これ以上綺麗な世界なものはちょっとよく分からない。
「あ、そこに魚がおるけどどうする?」
いつの間に彼らとは手を放して、服を脱ぎながら帰路にある川へ目をやる。
「せっかく乾いてきたのに…」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる鷹介に嫌な予感がして、つないでいた小さな子の手を放す。
鷹介と手をつないでいた隻腕の彼女はなにが起こるのだろうかと期待を込めた目で僕を見ていた。
「え、ちょっと待って、何でこっち来るの。え、待って嫌だ、なに?待って、止まって、ちょ、なんで何も言わないの、ちょ、待って、」
彼は何も言わずにニマニマとした表情を浮かべたまま足早にぼくに近づき、鷹介が近づくたび退くぼくの手を引っ張って、一緒に川へ飛び込んだ。
冷たい水がぼくの体を刺した。
水の中でも彼らの歓声が聞こえる。
鼻の中に水が入って痛い。
「も~~~~~~!何すんだよ」
耳の中にも水が入って、なんだか変な感じがする。
「見てみ!こんなにとれた!」
「はぁ~~~~?」
鷹介は自分の脱いだ服を網代わりにして、服の中に魚を入れ、その獲れた魚の数に喜んでいるが、ぼくはそれどころではない。
「すご…」
「え~~~!よーすけ、すご!」
「なんでこんなに獲れるん!?」
ぴちぴち跳ねている魚を目の当たりにして、キラキラ目を輝かせている彼らを見て、得意げになっている彼を見て、ちょっとムカついたけど、どうでもよくなった。
急に水の中に突き落とされたこと、引っ張られた際に服が皮膚に食い込んでいたかったこと、水にたたきつけられて痛かったこと、鼻の中に水が入っていたかったこと、それらを凝縮した怒りが沸々とわきあがったが、どうでもよくなっていた。
『頭が良くて、何でもできて、しっかりしてるみんなの兄ちゃん』
それが鷹介。
だからといって、ぼくは彼のことを『兄ちゃん』だなんて、調子に乗るに決まっているから言わないけど。
そしてぼくらが住んでいるのは、辺りは田んぼが広がる超ド田舎の寺。
砂を踏み固めてできた道に、青葉空の澄んだ空、文明を語りそうなほど高度な物は見当たらない。
そういえば、ぼくが住んでいる寺に教養を教えに来る物好きな男が「こんな王都とかけ離れて、情報が少ない世界もまた、いいものだねえ」と、しみじみと言っていたこともあった。
彼は教師という職業で、ここへはおっさまの指示で来ているらしい。
なにやら彼が住んでいる王都は、文明が発達しているため、ぼくが住んでいるこの地域とは同じ世界とは思えないほどひどく違っているようで、しんどいし、疲れるらしい。
ぼくは物心ついた時からずっとここに居るからそんなものは知らない。
正確にいえば、親に捨てられてずっとここにいるから、外の世界がイマイチ分からない、だ。
子どもができても、育てられない大抵の人は、この寺の前に子供を置いていく。
ぼくも鷹介も例外じゃない。
だから寺には、子供が多い。
だけど、孤児が増えて多いなと思うくらいになったら、運よく里親が見つかって、その子たちとはさよならする。
ぼくにとって、ここの寺が家で、鷹介は兄弟みたいなもんで。
ぼくにはそれだけで十分だから問題はない。
でもその教師いわく、ここの治安は相当悪いし、とても不衛生なのだと。
物心がついた時からここに居るぼくにとって、人が言う『汚い』とか『不衛生』はよくわからない。
これ以上綺麗な世界なものはちょっとよく分からない。
「あ、そこに魚がおるけどどうする?」
いつの間に彼らとは手を放して、服を脱ぎながら帰路にある川へ目をやる。
「せっかく乾いてきたのに…」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる鷹介に嫌な予感がして、つないでいた小さな子の手を放す。
鷹介と手をつないでいた隻腕の彼女はなにが起こるのだろうかと期待を込めた目で僕を見ていた。
「え、ちょっと待って、何でこっち来るの。え、待って嫌だ、なに?待って、止まって、ちょ、なんで何も言わないの、ちょ、待って、」
彼は何も言わずにニマニマとした表情を浮かべたまま足早にぼくに近づき、鷹介が近づくたび退くぼくの手を引っ張って、一緒に川へ飛び込んだ。
冷たい水がぼくの体を刺した。
水の中でも彼らの歓声が聞こえる。
鼻の中に水が入って痛い。
「も~~~~~~!何すんだよ」
耳の中にも水が入って、なんだか変な感じがする。
「見てみ!こんなにとれた!」
「はぁ~~~~?」
鷹介は自分の脱いだ服を網代わりにして、服の中に魚を入れ、その獲れた魚の数に喜んでいるが、ぼくはそれどころではない。
「すご…」
「え~~~!よーすけ、すご!」
「なんでこんなに獲れるん!?」
ぴちぴち跳ねている魚を目の当たりにして、キラキラ目を輝かせている彼らを見て、得意げになっている彼を見て、ちょっとムカついたけど、どうでもよくなった。
急に水の中に突き落とされたこと、引っ張られた際に服が皮膚に食い込んでいたかったこと、水にたたきつけられて痛かったこと、鼻の中に水が入っていたかったこと、それらを凝縮した怒りが沸々とわきあがったが、どうでもよくなっていた。