奴隷戦士
痛みで目が覚めた。
背中が痛い。
一体、いつから寝ていたのだろうか。
小さく伸びをすると体中が軋んだ。
ここはどこだ。
辺りを見回すと、子どもが沢山いた。
月に照らされた表情は、暗いものばかりだった。
くまができている子どももいれば、ガリガリに痩せた子ども、顔にやけどがある子ども、はたまた、身なりのいい子ども。
どれにせよ、どこかで誘拐されたか、孤児の子どもが集まっているようだった。
六畳くらいの荷台にぼくたちはいた。
逃げられないように鉄格子の屋根、壁、ぼくたちの手足には鉄の枷がついて、ひどく重たかった。
きっと、この重さじゃ逃げても体力が奪われるだけなのだろうと予測させ、その思考を断念させる。
なにがあった?
よく覚えていない。
服を見ると、血がべったりと着いていて少し気持ち悪かった。
これお気に入りだったのに。
「絶対アイツだって。俺聞いたもん、四人殺られて連れてくるの大変だったって。合流した時に、言ってたんだって」
ヒソヒソと言う声もハッキリと聞こえた。
そんな彼らと目が合った。
彰太郎が昔、ぼくを見る目に似ていた。
「…………………」
と、不意に蓮が手元にないことに気づいた。
ない。
ない。
ない。
辺りを見渡してもそれらしきものは見当たらない。
「ねぇ…ぼくの蓮……刀、知らない?」
ヒソヒソと喋っていた子どもに聞くが、彼らは首をかしげた。
…はな。
じわりと、涙が出てきた。
まるで、彼女とはもう会えなくなったみたいで。
「お、おい、泣くなよ…。これは?これは違うのか?」
そんなぼくを気遣ってか、ヒソヒソと喋っていた一人が、ぼくに木の棒を差し出した。
それよりもぼくは、自分がしてきたことを思い出してそれどころじゃなかった。
はな。
花はぼくが。
ぼくが。
「だから泣くなって…俺まで泣きたくなるじゃんかよお……あ、俺ジルっていうんだけど」
「なんでお前がつられて泣くんだよ。しかも自己紹介って…」
ヒソヒソと喋っていたもう一人…ジルじゃない方がげんなりしたように言う。
「こっちはクルトっていうんだけどさ、なぁ、いい加減泣きやめよ…泣き虫かよ…」
いつの間にか、ジルがぼくの隣に来ていて、クルトもこちらに来ようとしていた。
「で、何があったのよ?てか、ここ寒いな」
「今更?」
ジルは金髪だった。
鼻が高く、背も高かった気がする。
クルトは髪が茶色で、ソバカスが沢山あった。
まだ夜明けには遠く、視界の悪いこの状況でそれだけ分かれば充分だと思えた。
そしてランプの光が二人の髪色を照らした時、同郷じゃないとすぐに悟った。
「で、お前は?」
「…紐紫郎」
「ジューシロー?長いな。シローでいい?」
そういうジルにクルトが「大して変わんないだろ」と言う。
そして、彼らは…と言ってもジルがほとんどだけど、今まで起こったことや体験したことを喋ってた。
彼は雪が降る場所で生まれ育ち、同い年より背が高く、それでよく大人と間違えられるらしい。
でも喋ると拙い言葉と思慮の浅さでバレるらしい。
彼の家は貧しく、大人の振りをして稼ぐことが多く、今回もそうしていたら子どもだとバレてここにいられたらしい。
「なに、その仕事、大人オンリー?」
クルトが訝しそうに聞いた。
「そうそう、内容がアレなだけに報酬は弾んでたし」
「内容がアレってなによ…?」
「えーっと…子どもを攫う…的な?」
ぶわっとクルトが殺気立った。
「ちょっと待って!じゃぁ、ジルはこの先…ぼくたちがこの先どうなるのかも知ってるんじゃないの?」
ジルを殴ろうとしているクルトを止めて、ぼくはジルに尋ねた。
「…まぁ、だいたいは」