奴隷戦士


とある薄暗い部屋に連れて行かされ、手に花緑青(ハナロクショウ)色の液体が入った試験管を持たされた。


いかにも、体に悪そうな液体。


なんだこれ、とジルが言いながらにおいを嗅ぐ。


彼は首をかしげて、眉間にしわを寄せた。


どうやら無臭のようだ。


「全員に行きわたったな?」


試験管を手渡した白衣を着た白いひげを蓄えた男が言った。


髪は黒いのにひげが白い変な男だと思った。


この部屋にはぼくたちを囲うように、同じような大人が六人いた。


どの男も手に資料を持っていて、彼らは無表情でこれから何が始まるのか分からない。


「飲め」


白ひげが言った瞬間、ざわついた。


「いやだ!おうちに帰りたい!!!」


一人の女の子が試験管を投げ捨て、叫んだ。


パキンと試験管が割れる音がした。


「僕も帰る!!!お母さんのところへ帰して!!!」


身なりからして、裕福そうな子どもがさらに二人、白ひげに抱き着いた。


「そうか、帰りたいか」


---ッ


「――え」


一瞬、何が起こったのか、分からなかった。


ゴトンという音がして、最初に抱き着いた女の子の首が地面に落ちた。


行き場を失った血液が、天井を染めていく。


「う、うわぁぁぁぁぁぁあああ――!!」


一人の悲鳴を合図に、時が動き出した。


泣き叫ぶ子ども、地面にぺたりと座ったまま動けなくなっている子ども、逃げようと入ってきたドアの方へ行く子ども。


ぼくは試験管を手に動けなかった。


その間にも、白ひげは逆らった残りの子どもを殺していく。


ナイフで子どもの頭を刺し、逃げる男の子の腕をつかみ、首にナイフを刺す。


「っ!」


ジルとクルトも恐怖で固まっていた。


これは…ワケアリどころじゃない…。


「なにをしている。早く飲まないか。それとも、こうなりたいか?」


白ひげの男はギョロリと目玉を動かして、試験管の中身を飲めと言う。


ぼくの手は震えていた。


いやな汗が背中を伝っていく。


体温が下がっていくような気がした。


この花緑青色の液体を飲んだらどうなるのか、分からないという恐怖と、飲まなかったら彼らのように殺される恐怖と。


「きゃぁぁぁぁぁああああ!!!」


「ああああああああああああああ!!!」


悲鳴が聞こえた。


声がした方を見ると、空になった試験管が割れていた。


あの液体を飲んだらしい。


「っ!!?」


飲んだ彼女は突然、自分の首に手をあて、苦しそうにもがき始めた。


「ああぁぁ…あ、…あああ…」


顔は血が上ったように真っ赤になり、口からは泡が出ていた。


「ぎゃっ」


一方で彼は、右腕が取れたようで、泣きながら腕を押さえていた。


大量に出血するのを、白衣を着た男たちは止血することもせず、ひたすらに資料になにか書き込んでいる。


「なんの…ジョークだよ……」


クルトが青い顔で言った。


「聞いていた話と、だいぶ違うな…」


ジルがひきつった表情で言った。


「………………」


ぼくは言葉を発せなかった。


まるで、地獄だ。
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