奴隷戦士

「ぅわっ」


突然、ぼくは肩をつかまれ、おっさまを囲む子供の輪の外へ弾かれて、尻餅をついた。


近寄ってきた誰かが、ぼくを押しのけて身を乗り出したのだ。


「どけよ、チビ」


尻餅をついたまま、ぼくはおっさまを見ていると、ふっと目の前に影が射した。


あぁ、いやだなぁもう。


こんなことをするのは彼らしかいない。


「彰太郎(ショータロー)が通れねえだろ」


そんな声が上から降ってきて、あぁ、やっぱりそうかと思いながらぼくは気怠く立ち上がる。


目の前に立っていたのは、ぼくを突き飛ばして尻もちをつかせた彼らだった。


ぼくを哀れな目で見ていて、にやにやとした目でも見ていて、格好の餌食だと言っているような目だ。


年はぼくと同じはずなのに、この寺でいちばん体が大きくて、誰よりも知識を欲しがる、いわゆるガキ大将...それが彰太郎だ。


それと、彰太郎の側にいつもいる、一人じゃほとんど何にもできないひとが二人。


その二人の名前は、覚えてないから知らないんだけれど。


そんな三人を目の前にして、喧嘩ごとに巻き込まれる前に退散しようと立ち上がる。


どうせ関わってもロクなことは起きないんだ。


そうして、ぼくが歩き出した途端に、何かにつまずいて派手にこけた。


「あ、わりい」


棒読みの、心のない謝罪と嘲笑が上から降ってくる。


毎回毎回、どうしてぼくがこんな目に合わなくちゃいけないの、痛い。


すれた肘と膝からジワリと血が滲み、ヒリヒリと痛む。


「…う、」


痛みをこらえようとすればするほど、目頭が熱くなり、視界が滲んでいく。


泣いちゃだめだ、ここで泣いたら鷹介に迷惑がかかる。


ぼくがそうして必死に我慢しているのを知ってか、知らずか、彰太郎は何事もなかったように、ぼくの手をご丁寧に踏みにじった。


引き抜こうとも、手に力が入らない。


再び、嘲笑の声が上から降ってくる。


あぁ、だめだ、我慢できない。


「うわぁぁぁぁぁああああんんんん!!痛いぃ」


「うるせーんだよ、毎回毎回!」


「ああああ――うぐっ」


彰太郎たちは泣きわめくぼくの腹に蹴りを入れたり、うずくまっているぼくを踏みつけたりして、声を出すことを許さない。


「なんしょんな、彰太郎!!」


だけど、さっきのぼくの声を聞いたらしい鷹介がそれやめさせた。


舌打ちが聞こえるけど、鷹介が来てくれたからもう大丈夫だ。


彼らは鷹介に勝てない。


そして鷹介はぼくを立たせ、服に着いた砂をはたいてくれた。


「毎回毎回、鷹介に助けられていいご身分だな。自分じゃ何もできないくせに」


去っていく彼らはそう言い残し、盛大に屁をこいて行った。


「なんであぁも、くさい屁を意図的に出せるんや…意味わからん」
 

「………………」


彰太郎たちはおっさまの所へ行き、猫をかぶってヘラヘラしている。


おっさまは歳で耳がよくないからぼくが泣いたことも、けられたことも知らないんだろう。


周りの子たちは、自分に被害がつけられないように動き、動く。


つまりは、みんなそろってぼくを無視だ。


彼らは何かとぼくに因縁をつけては、ひどい仕打ちをする。


例えば、ぼくのご飯を全て横取りしたり、体格が小さい俺に、叩いたり蹴ったり、湯船に押し込められた時は、本当に死ぬかと思った。


――なんで、ぼくが


そんなことを思い続けてはや半年になるだろうか。


解決策はまだ浮かばない。
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