奴隷戦士
ギルとリャノ
*
目を開けると、真っ白な色が目に映った。
嗅いだことのない鼻をツンとつく匂いがした。
ぼくは仰向けになっていて、動かすのも面倒なほど、ひどく体が重たかった。
ここがいわゆる仏様のいるところだろうか、思っていたのと違うことに戸惑いを隠せない。
もっと、体がダルイだとか、気分が良くないだとか、そんなものとは無縁で、景色も真っ白ではなくて色鮮やかな場所で、見たことのない綺麗な色をした花とか、鳥とかがいて、花の蜜のいい匂いがする場所なのかと思っていた。
そんな想像をして、僕は眉をひそめた。
いや、違う。
ぼくは仏さまのところへなんか行けない。
行けるわけがない、だって、ぼくは。
また、あのときのことを思い出して、じわりと涙が出てくる。
「…………はな………」
嗅いだことのない匂いが鼻を刺激しているが、鼻水で匂わなくなってしまった。
こんなふうに、花のことも忘れて、新しいことに上書きされてしまうのだろうか。
自分の体を見ると、腕や足にはいろいろな管が刺さっており、その管を通して透明のような液体と血液のような液体がぼくの体の中へ入っていた。
血まみれになっていた服は着ておらず、代わりに、全裸の上に真っ白な布がかぶせてあった。
ぼくの体にはたくさんの管が機械につながれており、動かすたびに、体内にある管が動いているようで、なんだか気持ち悪かった。
辺りを見渡すと、床から天井まである大きな鏡があり、それ以外は真っ白な世界だった。
ぼくがいる以外、ぼくを生かす必要最低限の機械しかこの部屋にはなかった。
出入り口がどこなのかさえも分からない。
「やっと起きたかね」
突然の音に内心驚きながらも、声がした方を見ると、眼帯をした白ひげが立っていた。
「おまえ…!」
ジルたちのことが脳裏を駆け巡り、居ても立っても居られず、勢いよく起きると、目の前が暗くなった。
「う…」
頭が重く、頭の中から痛みが脈打つように広がっていく。
酸欠のようにくらくらする。
「なに、案ずることはない。お友達も生きている」
本当かどうか分からないけれど、ひどく嘘くさい言葉だった。
ぼくは、くらくらする頭に手を当てた。
じっとしていると少しずつ痛みが和らいでいく。
「私は君を探していたんだ」
どうも、このひげの言うことは信用ならない。
ぼく以外、全員にそんなことを言って、言われた人が自分が特別だと認識させるようにしむけているようだ。
「少し痛むかもしれないぞ」
一言、言って白ひげは、ぼくの体についている管を慎重に抜き取っていく。
その様子を見ながらここにいないクルトたちのことに思いをはせた。
彼らは無事だろうか。
あの腕が取れてしまった子はどうなったのだろう。
腕はくっついたのだろうか。
「よし」
白ひげが鼻高々と声を出した。
すべての管が体から引き抜かれたのを見て、ぼくは自分の重い体を大きな鏡の前に引き寄せた。
背が低く、うっすらあばら骨が見えていて、あんなに鍛錬したのに手足には、どこに筋肉や肉がついているのか、よく分からない体だった。
唇はガサガサしていて、切れたところから血がにじみ、目の下にはクマができている生気のない目が、ぼくを見ていた。
目を開けると、真っ白な色が目に映った。
嗅いだことのない鼻をツンとつく匂いがした。
ぼくは仰向けになっていて、動かすのも面倒なほど、ひどく体が重たかった。
ここがいわゆる仏様のいるところだろうか、思っていたのと違うことに戸惑いを隠せない。
もっと、体がダルイだとか、気分が良くないだとか、そんなものとは無縁で、景色も真っ白ではなくて色鮮やかな場所で、見たことのない綺麗な色をした花とか、鳥とかがいて、花の蜜のいい匂いがする場所なのかと思っていた。
そんな想像をして、僕は眉をひそめた。
いや、違う。
ぼくは仏さまのところへなんか行けない。
行けるわけがない、だって、ぼくは。
また、あのときのことを思い出して、じわりと涙が出てくる。
「…………はな………」
嗅いだことのない匂いが鼻を刺激しているが、鼻水で匂わなくなってしまった。
こんなふうに、花のことも忘れて、新しいことに上書きされてしまうのだろうか。
自分の体を見ると、腕や足にはいろいろな管が刺さっており、その管を通して透明のような液体と血液のような液体がぼくの体の中へ入っていた。
血まみれになっていた服は着ておらず、代わりに、全裸の上に真っ白な布がかぶせてあった。
ぼくの体にはたくさんの管が機械につながれており、動かすたびに、体内にある管が動いているようで、なんだか気持ち悪かった。
辺りを見渡すと、床から天井まである大きな鏡があり、それ以外は真っ白な世界だった。
ぼくがいる以外、ぼくを生かす必要最低限の機械しかこの部屋にはなかった。
出入り口がどこなのかさえも分からない。
「やっと起きたかね」
突然の音に内心驚きながらも、声がした方を見ると、眼帯をした白ひげが立っていた。
「おまえ…!」
ジルたちのことが脳裏を駆け巡り、居ても立っても居られず、勢いよく起きると、目の前が暗くなった。
「う…」
頭が重く、頭の中から痛みが脈打つように広がっていく。
酸欠のようにくらくらする。
「なに、案ずることはない。お友達も生きている」
本当かどうか分からないけれど、ひどく嘘くさい言葉だった。
ぼくは、くらくらする頭に手を当てた。
じっとしていると少しずつ痛みが和らいでいく。
「私は君を探していたんだ」
どうも、このひげの言うことは信用ならない。
ぼく以外、全員にそんなことを言って、言われた人が自分が特別だと認識させるようにしむけているようだ。
「少し痛むかもしれないぞ」
一言、言って白ひげは、ぼくの体についている管を慎重に抜き取っていく。
その様子を見ながらここにいないクルトたちのことに思いをはせた。
彼らは無事だろうか。
あの腕が取れてしまった子はどうなったのだろう。
腕はくっついたのだろうか。
「よし」
白ひげが鼻高々と声を出した。
すべての管が体から引き抜かれたのを見て、ぼくは自分の重い体を大きな鏡の前に引き寄せた。
背が低く、うっすらあばら骨が見えていて、あんなに鍛錬したのに手足には、どこに筋肉や肉がついているのか、よく分からない体だった。
唇はガサガサしていて、切れたところから血がにじみ、目の下にはクマができている生気のない目が、ぼくを見ていた。