奴隷戦士
*
気づいたら、褐色の肌をした知らない男がぼくをのぞき込んでいた。
「ほう、目が覚めたか」
それだけ言って、彼はぼくの視界から消えた。
「…………………」
あれほど痛かった頭痛はどこかへ行ったようで、その痛みそのものがまるで嘘みたいだった。
ここはどこだと、起き上がって見渡すと、彼女たちと出会う前に寝かされていた部屋と同じようだった。
ぼくが横になっていた隣の台に蓮が置いてあった。
鞘にしまってあった刀身を見ると、血などはついておらず、誰かが手入れをしてくれたようだ。
蓮を持ってぼくが寝かされていた台から降りると、足が体の衝撃を支えた。
「…………………」
確か、彼に腹を刺されたはずだったが、その傷はなくなっていた。
「それは護る剣だろう?」
不意に褐色の男がぼくを指して言った。
「ここでそれでは生きてけない」
何の話だ、と思ったが、先ほどの彼女たちのことが脳裏をかすめた。
「おいで。儂が教えてしんぜよう」
「…………………」
彼についていくと、そこにはぼくと同い年か、それより上の子どもたちが、剣の稽古をしていた。
稽古と言っても、実戦さながらの動きだったが。
ここの子どもたちは儂が育てている、と彼は言った。
「…………………」
ぼくはその様子を見ていた。
彼らは木刀で稽古をしていて、一人が一度に数人を相手していた。
見たことのない戦い方だった。
ひたすら急所を狙い、突くような動きと、首をそぎ落とすような動き。
相手が確実に死ぬようにと、狙っているかのような動き。
まさか、これは。
「……これは…」
こめかみから頬へと汗が伝っていく。
「なんだ、淡路を知っているのか?」
男が腕を組んで言った。
意外だというように。
衝撃だった。
まさか、まだこの流派がこの世に存在しているなんて。
師匠はもう廃れてしまっていると言っていたのに。
ぼくの流派と対極にある、淡路。
「淡路は、殺す剣でしょう…?それは………ぼくは、そんなのしたくない」
拒否をするぼくに、男はギョロリと目玉を動かした。
「先ほども申したが?」
何を、と聞かずとも、それは分かっていた。
「そんな剣ではここで生きていけぬ。まして、生き抜くことなど」
自分の流派が汚されているようで、腹が立った。
「そんな甘っちょろい剣など、ここでは何の役にも立たぬ」
何を根拠に言っているのだろう。
「なに、見れば分かる」
男が手を上げると、部屋のぼくたちがいるところよりずっと奥から、なにやら大きな獣が二体出てきた。
警告音が鳴り、稽古をしていた子どもたちは蜘蛛の子を散らすように物陰に隠れた。
「おい、ヤン!何しやがる!!!」
汗だくになった子どもの一人が、ヤンと呼ばれた褐色の肌の男に叫んだ。
「お前の剣を見せてやれ、ウソン」
ヤンはどこからか持ってきた剣を彼に投げ、言った。
ウソンと呼ばれたその子どもは、その剣を受け取り、「はぁ?」と顔を歪めたが、襲い掛かってくるその獣の退治を優先させた。
彼は素早く鞘から剣を抜き、その獣の相手をした。
サイのような太い胴と手足、それに似合わぬ鋭い爪、尻尾とその胴体の模様は斑点があり、まるでチーターのよう。
模様だけは。
「あれが、これからお前が戦っていく物だ」
そのヤンの言葉に絶句した。
その大きな体に似合わぬ俊敏さに俺は度肝を抜かれた。
ウソンと呼ばれた少年は、太い爪をかわし、目玉に剣を立てた。
そして襲い掛かって来ている別の獣の太い首に、剣を滑らせるように切れ込みを入れた。
ドパッと、首から大量の黒い液体が地面に色を付けた。
目という急所を突かれてもなお、ウソンを殺そうと探しているその獣に、彼は脳天に剣を刺した。
その間に、首から出血をしている獣は大きな音と共に倒れ、灰となっていった。
頭に剣を刺された獣も、彼が剣を抜いてしばらくした後、灰となった。
気づいたら、褐色の肌をした知らない男がぼくをのぞき込んでいた。
「ほう、目が覚めたか」
それだけ言って、彼はぼくの視界から消えた。
「…………………」
あれほど痛かった頭痛はどこかへ行ったようで、その痛みそのものがまるで嘘みたいだった。
ここはどこだと、起き上がって見渡すと、彼女たちと出会う前に寝かされていた部屋と同じようだった。
ぼくが横になっていた隣の台に蓮が置いてあった。
鞘にしまってあった刀身を見ると、血などはついておらず、誰かが手入れをしてくれたようだ。
蓮を持ってぼくが寝かされていた台から降りると、足が体の衝撃を支えた。
「…………………」
確か、彼に腹を刺されたはずだったが、その傷はなくなっていた。
「それは護る剣だろう?」
不意に褐色の男がぼくを指して言った。
「ここでそれでは生きてけない」
何の話だ、と思ったが、先ほどの彼女たちのことが脳裏をかすめた。
「おいで。儂が教えてしんぜよう」
「…………………」
彼についていくと、そこにはぼくと同い年か、それより上の子どもたちが、剣の稽古をしていた。
稽古と言っても、実戦さながらの動きだったが。
ここの子どもたちは儂が育てている、と彼は言った。
「…………………」
ぼくはその様子を見ていた。
彼らは木刀で稽古をしていて、一人が一度に数人を相手していた。
見たことのない戦い方だった。
ひたすら急所を狙い、突くような動きと、首をそぎ落とすような動き。
相手が確実に死ぬようにと、狙っているかのような動き。
まさか、これは。
「……これは…」
こめかみから頬へと汗が伝っていく。
「なんだ、淡路を知っているのか?」
男が腕を組んで言った。
意外だというように。
衝撃だった。
まさか、まだこの流派がこの世に存在しているなんて。
師匠はもう廃れてしまっていると言っていたのに。
ぼくの流派と対極にある、淡路。
「淡路は、殺す剣でしょう…?それは………ぼくは、そんなのしたくない」
拒否をするぼくに、男はギョロリと目玉を動かした。
「先ほども申したが?」
何を、と聞かずとも、それは分かっていた。
「そんな剣ではここで生きていけぬ。まして、生き抜くことなど」
自分の流派が汚されているようで、腹が立った。
「そんな甘っちょろい剣など、ここでは何の役にも立たぬ」
何を根拠に言っているのだろう。
「なに、見れば分かる」
男が手を上げると、部屋のぼくたちがいるところよりずっと奥から、なにやら大きな獣が二体出てきた。
警告音が鳴り、稽古をしていた子どもたちは蜘蛛の子を散らすように物陰に隠れた。
「おい、ヤン!何しやがる!!!」
汗だくになった子どもの一人が、ヤンと呼ばれた褐色の肌の男に叫んだ。
「お前の剣を見せてやれ、ウソン」
ヤンはどこからか持ってきた剣を彼に投げ、言った。
ウソンと呼ばれたその子どもは、その剣を受け取り、「はぁ?」と顔を歪めたが、襲い掛かってくるその獣の退治を優先させた。
彼は素早く鞘から剣を抜き、その獣の相手をした。
サイのような太い胴と手足、それに似合わぬ鋭い爪、尻尾とその胴体の模様は斑点があり、まるでチーターのよう。
模様だけは。
「あれが、これからお前が戦っていく物だ」
そのヤンの言葉に絶句した。
その大きな体に似合わぬ俊敏さに俺は度肝を抜かれた。
ウソンと呼ばれた少年は、太い爪をかわし、目玉に剣を立てた。
そして襲い掛かって来ている別の獣の太い首に、剣を滑らせるように切れ込みを入れた。
ドパッと、首から大量の黒い液体が地面に色を付けた。
目という急所を突かれてもなお、ウソンを殺そうと探しているその獣に、彼は脳天に剣を刺した。
その間に、首から出血をしている獣は大きな音と共に倒れ、灰となっていった。
頭に剣を刺された獣も、彼が剣を抜いてしばらくした後、灰となった。