奴隷戦士
「この前のやられた分、しっかりし返してやるからな!」
黒い肌の彼は血走った目を僕に向け、手にある短刀でぼくを殺すように首や目や腹などを執拗に狙う。
一方で、茶色と黒髪の彼女は、ぼくの攻撃を防いでは黒い肌の彼の攻撃を援助していた。
そんな攻防が長い間続き、ヤンが止めに入った。
ぼくも彼も彼女も汗だくで、息が上がっていた。
「なんだその腑抜けた戦い方は?ギルトリャノに失礼だとは思わんのか?」
殺し合いをしろ、とぼくにヤンは付け足した。
「ぼくはもう殺したくない」
つかまれた腕に力が入った。
「前に見たであろう。ギルとリャノはいくら傷つけても死なん。彼らは対ウサギの戦い方をしておる。存分に学べ」
彼らは死なない?
言われてみれば、あれだけひどい傷をしていた彼は、痛みを我慢しているように戦っているどことか、むしろ、ケガなどなかったように俊敏に動いている。
ヤンがぼくと彼の腕を握っている力をゆるめ、身を引いた。
途端に、彼がぼくに攻撃をする。
うまくかわしたつもりでいたが、着地に失敗して思いきり壁に額をぶつけた。
「ゔぁっ」
気持ち悪い。
頭がぐらんぐらんゆれて、気持ち悪い。
額を押さえてかがんでいると、足もとにポタポタと、自分の血が落ちていった。
「っは」
よろける体を必死に制御しようとしている最中、背中に攻撃を受けた。
攻撃を受けた背中が燃えるように熱く、焼ける道場を思い出させた。
花ちゃん。
「もっと、楽しまねえのか」
となりで彼がささやいた。
ここで死んだら彼の思うつぼだろうか。
後ろにいる彼女は笑えるようになるのだろうか。
花は悲しむだろうか。
「ぼくは…」
ゴポッと口から大量に血が出ていった。
ぼくは死ぬんだろうか。
遠くなっていく意識の最後に聞き取れたのは、悲鳴にも似た音だった。