奴隷戦士



「……ぼくが一番分かってる…」


お手伝いさんが言ったことを呟いた。


きっと彼女は、ぼくが彰太郎たちからいじめられているのを知っているのだろう。


「なん?」


広い風呂の中でバシャバシャとはしゃぎながら、鷹介が言う。


「お手伝いさんが道場を訪ねてみたらどうかって」


「…あぁ」


彼は真面目な顔つきになって、さぶさぶと波をかき分け、ぼくの隣に来た。


「別にそんなん行かんでも、俺が守ってやるで?」


冗談を言っている顔ではなかった。


『毎回毎回、鷹介に助けられていいご身分だな。自分じゃ何もできないくせに』


不意に彰太郎のあの言葉が脳裏をかすめたから、鷹介の言葉に対して、なにも言葉を返せなかった。


「まぁ、いいけど」


彼はさほど興味なさそうに、口を湯に浸けてブクブクと空気を吐いて遊び始めた。


「………………」


ぼくはそんな鷹介を一瞥して、立ち上がった。


「………………」


風呂から出ようとした時、ふと、風呂の入り口にある大きな鏡に映った自分の姿が目に入った。


歳の割に背の小さな体に、無数のあざがあった。


鎖骨もあばらも浮き出ている。


腕も足も関節だけが太い、まるで骨と皮だけの肢体のようだった。


それだけならまだしも、あざが黄色と茶色でまだらになっている場所がある。


紫色がくすんで、褪せてきたところで新しくできたあざが重なってできたからだ。


彰太郎たちが作った傷。


彼らもここまでひどいとは露程も思っていないだろう。


まるでそういう生き物の模様のよう。


鏡を見ると、疲れ切った表情を浮かべていて、目にかかった髪の隙間から目つきの悪い一重の切れ目がぼくを見ていた。


「………………………」


ぼくはその鏡を尻目に見ながら、風呂を出た。
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