奴隷戦士


「ここは俺たちだけが知っている場所だと思ったんだけどな。まぁいいか」


リャノがぼくの隣に腰を下ろし、ギルはフィーネのお膝に座った。


じっと、ギルがリャノを見る。


リャノが眉間にしわを寄せて、なんだと聞いた。


「ひとりじめ、よくない」


「別に独り占めしてねえ」


「リャノはそういうところある」


「ないね」


「私のことも独り占めしがち」


「ギルはお転婆さんだからな」


二人のやり取りをじっと見ていると、不意にリャノがぼくに目を向けた。


「んだよ?」


その目には嫌悪も好意もなく、純粋に疑問だけが映ってあった。


「ぼくのことが嫌いじゃないの?」


「は?」


ぼくの言葉におどろいたのか、ギルもぼくの方を見て、目が点になってしまった。


「私は嫌いでもないし、好きでもない…」


ギルがフィーネの手首をぎゅっと握って、遠い場所を見ながら言った。


白い息が口から出て行った。


「俺はきらいだな!」


一方でリャノは、ぼくの目をみてはっきりと拒絶した。


「え」


嫌いだというくせに、どうして彼の口角が上がっているのか不思議だった。


「だってオマエ何なの?型なしでウサギを倒せるくせに、型を持っている俺らからずっと逃げまくってよお。なんか腹が立つ。最後の方にやる気になって、俺らをコテンパンにするあたり、ほんと腹が立つ。最初からその意気で来いよ」


ギルが言い過ぎよ!と叫び、フィーネがクスリと笑った。


「ウサギはなぁ、簡単に殺せる相手じゃねえんだよ。必死に戦って、戦って、戦って、やっと倒せるような相手なわけ。分かるか?それを俺らと戦いたくないからって逃げ回って、馬鹿にするのもいい加減にしろよ」


「ぼ、ぼくがギルを狙うから嫌いじゃないの?」


てっきりそういうことだと思っていたぼくは、彼のその言葉に混乱する。


ぼくがぶつけた疑問はさらに彼を怒りへと導いた。


「おまえ本当に何も分かってねえな!?ここはそういう場所なんだよ、ウサギを倒すためにある場所!俺らとオマエを戦わせて、強くする!そしてウサギを倒せるよう訓練する場所!」


一体、いつから彼はここにいるのだろう。


つい最近ここへ来たぼくには到底理解できないものだった。


ウサギを倒すために仲間同士で殺し合いをするなんて、理解ができない。


リャノは訓練だと言うが、あれは殺し合いだ。


そんなもの、万が一、ぼくが本当に殺してしまったら。


そんなの、ぼくは耐えられない。


「まぁまぁ、落ち着いて。リャノは本気でジュウシロウと戦っているのに、君が本気で戦ってくれないことが嫌みたい」


一気に言われて、何がなんやら、混乱しているぼくにフィーネが解説した。


「嫌だよ…ぼくは君たちと戦いたくない…」


「はぁん!!?どの口がほざいてんだ!!?」


「ちょっとリャノ!」


本音をそのまま言ったところで、状況が変わるわけではなく、悪化した。


リャノはぼくの胸元をつかみ、見るからに怒髪天を衝いていた。


ギルはそんなリャノを押さえているようだったが、全然意味をなしていない。


「なんで見込みのある奴がこんな腑抜けなんだよ…!」


彼は悔しそうにぼくの胸元を離した。


そんなに気に食わないのなら、ぼくを殺せばいいのに。


「ジュウシロウ、ごめんね。痛かったでしょう?」


怒りながら来た道を帰っていくリャノを背に、ギルがぼくの首元を触った。


「あんな風に、素直に生きられる彼が少しうらやましい」


「ジュウシロウ…?」


彼には生きる意味があるように思えた。


ギルが不思議そうにぼくを見る。


でも、ぼくにはそれがどこにあるのか、分からなかった。
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