奴隷戦士


それからヤンは何も言わず、大部屋にぼくを連れて行った。


そこには、ぼくを向かい入れてくれた彼らが少し減っているような気がした。


「…遅かったな」


ウソンが暗い顔をしてぼくに言った。


目の下にはクマができていて、着ている白い服と一緒に真っ白になってしまうのではないかとおもうほど、顔が白かった。


「…だいじょうぶ?」


ぼくが声をかけると、ウソンはみるみる目に涙をためていった。


ヤンは元来た道をたどっていった。


「そんな声、かけてくれたのは、今まででおまえだけだよ」


ウソンはそう言って、ぼくの手をぎゅっと握った。


いつも強気な彼がこうも弱っているとは驚いた。


何があったのかは知らないが、うつむいたまま堰を切ったように泣く彼に、ぼくは彼に心を許している人だと言われているようで、うれしい反面、もう勝手なことはできないのかもしれないと複雑な気持ちだった。


「…そういえばナンシーは?ほかのみんなは?検査中?」


ウソンが落ち着いたのを見計らって、ぼくは聞いた。


あんなに血を吐いていたからまだ病床で横になっているのだろうか?


そういえば、「ぼくの分までウサギをこの世から無くして」と言っていた隣にいた彼もいない。


ウソンがここにいるのも、きっと僕と同じように早く目が覚めたんだろう。


「死んだ」


「え」


ゆっくりと、ウソンがぼくを見た。


なにもかも、投げ出したような、絶望した目。


鷹介と一緒にふろに入っていたときに、鏡に映っていた、あの目だった。
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