奴隷戦士
*
「基礎は教えた。あとは実践で経験を積め」
そうこうしているうちに、日が経ち、またしてもボコボコにされ、地面を這いつくばっているときにヤンが言った。
口の中は自分の血でいっぱいで、切った場所が舌にあたって痛い。
地面についている顎に汗が伝っていき、シミを作る。
なにが、基礎だ。
あれはただの殺し合いではないか。
真似をしろと言われ、真似をしていたらヤンはいきなりぼくに剣を向け、空を斬った。
混乱しているのをよそに、どんどんぼくを追い詰めていき、防ぐだけのぼくに「俺の真似をしろと言ったはずだが?」「剣をしていたのに大したことないな」「あの刀がどうなってもいいのか?」と発破をかける。
それの繰り返しだった。
しんどくてたまらなくなり、途中で気を抜く。
頭から血が出ているからそれを拭うのも、汗を拭うのも、ヤンには許せないらしく、いつもぼくを気絶するまで追い込んだ。
だから基礎を終えるまではウソンたちがいる大部屋や自室には足を運んでいない。
いつも目が覚めると、あれほど痛めつけられたのに無傷で医務室に横たわっていて、ヤンが覗き込んでいた。
一体、何日間ずっとヤンとこもっていたのかは知らない。
ここには日にちを数えるものもなければ、時間を数えるものもない。
朝か夜かも分からない。
大部屋と自室には窓があるが、それも外の世界を映しているわけではないらしかった。
「あれ?」
ヤンに指示された場所に向かっていると、階段からひょっこり顔をのぞかせたのはフィーネだった。
「怪我、してるね。どこ行くの?僕はザクロのところ。ウサギを殲滅するのと生け捕りにしろって」
フィーネは白い服を着ていた。
何も汚れていない、真っ白な服。
一方で、自分の服は血で汚れていて、それが大した怪我でもないのに大怪我したかのように主張して、なんだかそれがまたしんどかった。
それから彼はザクロがいる部屋はこっちで、あっちのほうは他の研究員の研究所で、そもそもザクロはね、この研究施設の一番偉い人なんだよと、まるで自分のことのように楽しそうに話す。
一体、なにがそんなに楽しいのやら。
ぼくは目線を足元に下ろした。足から血が出ていた。
後ろを振り返ると、白い廊下に血の足跡が薄くできていた。
今、自分がいるところは薄く、薄くなって自分の足跡は見えないが、さっきまで自分がいたところは今より少し濃い足跡が残っていた。
いつの間にか、足の裏から血が出ていたようだ。
痛みはない。
急に止まったぼくに、フィーネは大丈夫かと問うた。
なんでもないと返し、ぼくは先を進んだ。
彼はよくしゃべる。
彼の名を呼べば、彼はフィーでいいよと笑った。
いったいこんなところでなにが楽しくてそんなに笑っていられるのか、ぼくには分からなかった。
「基礎は教えた。あとは実践で経験を積め」
そうこうしているうちに、日が経ち、またしてもボコボコにされ、地面を這いつくばっているときにヤンが言った。
口の中は自分の血でいっぱいで、切った場所が舌にあたって痛い。
地面についている顎に汗が伝っていき、シミを作る。
なにが、基礎だ。
あれはただの殺し合いではないか。
真似をしろと言われ、真似をしていたらヤンはいきなりぼくに剣を向け、空を斬った。
混乱しているのをよそに、どんどんぼくを追い詰めていき、防ぐだけのぼくに「俺の真似をしろと言ったはずだが?」「剣をしていたのに大したことないな」「あの刀がどうなってもいいのか?」と発破をかける。
それの繰り返しだった。
しんどくてたまらなくなり、途中で気を抜く。
頭から血が出ているからそれを拭うのも、汗を拭うのも、ヤンには許せないらしく、いつもぼくを気絶するまで追い込んだ。
だから基礎を終えるまではウソンたちがいる大部屋や自室には足を運んでいない。
いつも目が覚めると、あれほど痛めつけられたのに無傷で医務室に横たわっていて、ヤンが覗き込んでいた。
一体、何日間ずっとヤンとこもっていたのかは知らない。
ここには日にちを数えるものもなければ、時間を数えるものもない。
朝か夜かも分からない。
大部屋と自室には窓があるが、それも外の世界を映しているわけではないらしかった。
「あれ?」
ヤンに指示された場所に向かっていると、階段からひょっこり顔をのぞかせたのはフィーネだった。
「怪我、してるね。どこ行くの?僕はザクロのところ。ウサギを殲滅するのと生け捕りにしろって」
フィーネは白い服を着ていた。
何も汚れていない、真っ白な服。
一方で、自分の服は血で汚れていて、それが大した怪我でもないのに大怪我したかのように主張して、なんだかそれがまたしんどかった。
それから彼はザクロがいる部屋はこっちで、あっちのほうは他の研究員の研究所で、そもそもザクロはね、この研究施設の一番偉い人なんだよと、まるで自分のことのように楽しそうに話す。
一体、なにがそんなに楽しいのやら。
ぼくは目線を足元に下ろした。足から血が出ていた。
後ろを振り返ると、白い廊下に血の足跡が薄くできていた。
今、自分がいるところは薄く、薄くなって自分の足跡は見えないが、さっきまで自分がいたところは今より少し濃い足跡が残っていた。
いつの間にか、足の裏から血が出ていたようだ。
痛みはない。
急に止まったぼくに、フィーネは大丈夫かと問うた。
なんでもないと返し、ぼくは先を進んだ。
彼はよくしゃべる。
彼の名を呼べば、彼はフィーでいいよと笑った。
いったいこんなところでなにが楽しくてそんなに笑っていられるのか、ぼくには分からなかった。