奴隷戦士
耳元で声がして、肩を引かれた。途端に世界が遠ざかっていく。
まるで、自分を置いて世界が先に進んでいってしまったよう。
遠ざかっていった世界に、誰かが自分と交代するように向かっていく。
これは、なんだ。
暗い場所に落とされて、あたりを見渡していると真っ暗な場所から突然、大画面が映し出された。
それは今まで自分が見ていた景色そのものだった。
ウサギのするどい爪をかわし、すぐにウサギの口が迫ってくるが、それを待ち構えたように葡萄を使い、八相の構えをとる。
そのまま自分はウサギの口の中に入り、鼻先からまっすぐ脳へ斬っていく。
けたたましい鳴き声をあげながらウサギは倒れ、灰となっていった。
紐紫郎はその中から現れた、自分の姿をした得体の知れないものに恐怖を覚えた。
自分の形をしているのに、まるで自分ではない。
自ら敵の中へと行ってしまうその無謀とも言える行動に鳥肌がたつ。
それでもなお、生きている彼が自分だとは到底信じられなかった。
そうして彼は次々とウサギを倒していく。
今までに見たこともないやり方だった。
高く飛んでは、脳天に突き刺し、襲いかかってくるウサギの攻撃を避けるために武器を手放し、灰を掴んでは目くらましに投げ、その隙に武器を手に取って、ウサギに向かっていく。
紐紫郎は目が離せなかった。
自分にはこんなことできない。
あんなに高く飛べるほど、できるほどの筋力を持ち合わせていない。
それに、自分の体から滲み出る強い殺気に目が離せない。
一体、何が起こっているんだろうか。
あれは誰だ。
自分は一体、どこにいるのだ。