奴隷戦士
そこまではっきりと言葉にされたのは初めてだった。
キララの目は据わっていた。
疑問ではなくて、確信にしていた。
世界に音はないのに、キーンという高い音がぼくの耳の中でこだまする。
別に隠していたわけじゃないけど、大事なものを暴かれたような感覚がしてドクドクと心臓が脈を打つ。
なんて返そうと思ってキララをじっと見ていたら、見てたら分かるわよと、苦笑されてしまった。
「でも無理に死ぬことないんじゃない。少なくともあんた、心のどこかでは死ぬわけにはいかないって思っているんじゃないの」
分からなかった。
ぼくが死ぬわけにはいかないと思っていること、死にたいと思っていても死ねなかったこと、それをたった数時間、一緒に過ごした人に伝わってしまうなんて。
でも、ぼくは本当に死ぬわけにはいかないと思っているのだろうか。
もし、花が生きていたら、何て言っただろう。
でもぼくは、
「分かんない」
「何が分かんないの」
「死にたい理由はあるのに、死にたくない理由が分かんない」
彼女は、どうしてそんなに死にたいのと、たしなめるようにもう一度言った。
そうしてぼくは、彼女に問われるがまま、答えた。
寺に住んでおっさまとお手伝いさんに育てられたこと、剣を習っていたところの好きな子と結婚する約束をしていたこと、好きな子を自分で殺してしまったこと、死のうと思っても死ねなかったこと、ウサギを倒せと脅されてしんどいこと、昨日の任務であの子を見殺しにして苦しかったこと、それが夢にになって責められてしんどかったこと。
「それは、しんどかったねえ」
よくがんばったねえ、今も頑張っているねえと、彼女はぼくの頭を撫でた。
「それで、そのおっさまの教えでは、償い終わった後はどうするの」
「償い終わったら、また肉体に宿って生を受けるの」
なるほどねえと、言いながら彼女はぼくの頭をなでるのをやめなかった。
「なら、やっぱり死ぬのは早計ね。生きなさい」
話聞いてた?と疑いたくなった。
「またその好きな子に会えるかもって言ってんのよ」
「え?」
「肉体を離れた魂は償いのために遠くへ行く。それで償い終わったら別の肉体に宿るんでしょ?なら、姿は変わっても魂の本質は同じだから、またどこかで会えるってことなんじゃない」
「え…」
そんなこと、考えたこともなかった。
「その子に出会うまで生きてればいいじゃない。今死んだらすれ違いになるかもしれないし」
「そんな…生まれ変わるまでにどれほど時間がかかるか分からないのに…」
「アタシも知らないわよ、そんなもん」
「花が別の体で戻ってきたときに、ぼくが死んでるかもしれない」
「でも、そうじゃないかもしれないじゃない」
「花は…ぼくだって気づかないかもしれない」
「でも気づくかもしれないじゃない。そんなの、分かんないわよ」
「仮に出会ったとして、ぼくが気づく前に死ぬかもしれない」
「でも、そうじゃないかもしれないじゃない。アンタはその子に会いたくないの」
「ぼく、は」
どうしたらいいの。
花はこんなぼくを嫌いにならないだろうか。
彼女以外に、ウサギという化け物を殺すのが日課なぼくを嫌いにならないだろうか。
いざ彼女と出会ったときに、想像してたものと違ったと言われたりしないだろうか。
「どうしたい?」
紐紫郎、生きて。
不意に花の声がした。
涙が出ていく。
どうしてか、分からない。
キララがぼくを見る。
いつの間にか頭をなでる手は止まり、キララの自分の膝の上に置いてあった。
ぼくは。
「花に会いたい」
キララがニヤリと口角をあげ、勢いよく立った。
「よく言ったわ!それでやるべきことが見えるわよ。でもこのままじゃマズイわね。栄養が足りてないから細胞も増えないわ。この怪我、治るどころか化膿するかもしれないわね。ハエもいるし。ここから逃げるわよ」
ここから逃げる、だって。
そんなこと考えたことなかった。