ビロードの口づけ 獣の森編
「きゃぁーん。ジン様、それは私へのアピールと受け取ってもいいですか?」
彼女は上気した頬を両手で包み、艶を帯びた瞳でニコニコとジンを見つめている。
「悪いな。オレは人型の方が基本だと思ってくれ。女の前で人型になったとしてもアピールじゃない」
「えー? なぁんだ、残念。ジン様なら即決なのに」
残念と言いながらも、それほど気落ちした風でもない。
二人の意味不明な会話にすっかり気を削がれて、クルミはジンに尋ねた。
「アピールって何ですか?」
「男が女に対して、選んでもらうために求愛する事だ」
「え?」
クルミは侍女をチラリと見る。
全く悪びれた様子がない。
”奥様”と呼んだところを見ると、クルミがジンの妻である事は認識しているようだ。
どうして、妻のいる男が自分に求愛している、という考えが浮かぶのかわからない。
首を傾げるクルミにジンがサラリと告げた。
「次の満月が来たら、結月(ゆいげつ)になる。獣の繁殖期だ。あんたは城から出るな」