ビロードの口づけ 獣の森編
老いているとはいえ相手は獣王だ。
もう少し力を蓄えて——と考えていた矢先に、ジンが獣王戦を挑み、これに勝利した。
まったくノーマークだった奴に目標を奪われてザキは荒れた。
とにかくジンが気に入らなかった。
ジンの事は刹那主義で野心のかけらもない奴だと見下していた。
それがいつの間にか獣王の片腕となる地位まで登り詰めていたのだ。
大方、卑怯な手を使って獣王を丸め込んだのだろう。
力のない奴はそういう裏工作が得意だ。
バカ正直に正面から挑むために機を窺っていた自分が間抜けに思えた。
それを思うと益々ジンが忌々しくて仕方がなかった。
「あんなヒョロっこい黒スケを王だとは絶対に認めてやるもんかと思ってた」
自分が馬鹿にされたような気がして、クルミはムッとしながら言い返す。
「ジンの力はそんなに弱くないでしょう? あなたに比べれば弱いのかもしれないけど」