ビロードの口づけ 獣の森編


 ザキはクスリと笑って頷いた。


「あぁ、そうだな。おまえのとこでやり合った時に知った。正直、驚いた。五年前にはオレの足元にも及ばない奴だったんだ。人の女と交わったと言っていたが、それを差し引いてもかなりの力だ。相当な努力もしたんだろう。あの黒スケをあそこまで押し上げた原動力がおまえだと知ったのは最近だけどな」

「え……」


 クルミを手に入れるためにジンが獣王になったのは本人から聞いた。
 それがジンを劇的に変えてしまうほどすごい事だと改めて知らされ、なんだか誇らしく思える。

 思わず頬が緩んだのを、ザキがすかさずたしなめた。


「手放しで浮かれるな。おまえはあいつにとって両刃の剣なんだ」

「どういう意味ですか?」

「おまえのためなら、あいつは途方もない力を発揮できる。だが、おまえに危険が迫ったり、おまえ自身が失われそうになるとあいつは激しく動揺する。いつもは余裕綽々で小憎たらしいくらいに取り澄ましたあいつがおもしろいくらいにな」

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