ビロードの口づけ 獣の森編


 動揺したジンを思い出しているのか、ザキが笑いをかみ殺している。
 クルミには想像できなかった。
 激しく怒っているのは見た事があるが、ジンはいつも冷静でザキとの戦いに赴く時も余裕すら感じられた。


「そうなんですか?」

「あぁ。侯爵邸でやり合った時も、あいつ、後一歩のところまでオレを追い詰めておきながら、おまえの声が聞こえただけで隙だらけになったんだ。おかけで命拾いした。おまえには感謝するべきかな」


 ニヤリとイタズラっぽい笑みを浮かべるザキに、つられてクルミも苦笑する。

 ザキは真顔に戻り厳しく言い放った。


「覚えておけ。動揺は隙を生む。その隙を突いて足元をすくってやろうとする奴が、この森にはごまんといる。あいつが作ろうとしている新しい獣社会が未完成の今は、周り中すべて敵だ。あいつに隙を作らせたくなければ、おまえも軽率な行動は控えろ」

「周り中すべてって……あなたやライも?」
「そう思っていれば間違いない」

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